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生物学

2021.11.17

細胞骨格を生み出す新しい仕組みを発見 ~「細胞骨格生成因子」を壊してみると~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の土屋 賢汰 博士後期課程学生と五島 剛太 教授は、大腸癌患者由来の培養細胞を使った実験で、「細胞骨格注1)」が生まれる新たな仕組みを見出しました。
細胞の形作りや分裂などの幅広い生命現象には、タンパク質の重合体である細胞骨格が関わっています。細胞骨格の一種である「微小管注2)」は、細胞分裂装置の形成や細胞内物質輸送などに重要な役割を果たします。微小管を生み出すには、構成タンパク質の重合を開始させる必要があり、この反応にはこれまで、「γ-チューブリン」と呼ばれるタンパク質が重要であることが知られていました。微小管生成因子であるγ-チューブリン遺伝子を欠失させると、細胞の分裂は異常になり、致死となります。
本研究では、ヒト培養細胞において、γ-チューブリンをほぼ完全になくした状態でも微小管が生み出される様子を観察することに成功しました。実験に用いたのはCRISPR/Cas9法注3)とAID法注4)という近年開発された手法で、これにより、細胞分裂前や細胞分裂中の特定の時期に急速にγ-チューブリンの分解を誘導しました。細胞内でγ-チューブリンに依存しない微小管が生成されることを発見し、さらには、生成を促進する因子として、微小管結合タンパク質の「CLASP1」と「TPX2」を同定しました。これらのタンパク質はγ-チューブリンに依存した微小管生成を促進する機能があることがこれまで知られていましたが、今回の研究では、γ-チューブリンとは独立して、微小管の重合開始に関わりうることが示されました。両タンパク質とも幅広い生物種で保存されており、多くの細胞種でこの生成機構が働いている可能性があります。
本研究成果は、2021年11月17日付アメリカ学術雑誌「The Journal of Cell Biology」(オンライン版)に掲載されました。
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業の支援のもとで行われました。

 

【ポイント】

・ヒト培養細胞で「γ-チューブリン」をほぼ完全になくした状態を作り出すことに成功した。
・「γ-チューブリン」非由来の微小管が生成されることを発見した。
・「γ-チューブリン」非依存的な微小管生成を促進する因子として、「CLASP1」と「TPX2」を同定した。
・微小管の生成には複数の仕組みがあることが示された。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)細胞骨格:
タンパク質の重合により形成される繊維状の構造。重合、脱重合を繰り返すことで動的な性質も示す。代表的なものにアクチン繊維と微小管がある。

 

注2)微小管:
α-及びβ-チューブリンというタンパク質が重合してできた繊維(細胞骨格のひとつ)。

 

注3)CRISPR/Cas9法:
ゲノム編集技術の一種。細胞のDNA配列をほぼ自由に改変できる。

 

注4)AID法:
植物ホルモンであるオーキシンを用いた迅速なタンパク質発現制御技術。

 

【論文情報】

雑誌名:The Journal of Cell Biology
論文タイトル:Microtubule-associated proteins promote microtubule generation in the absence of γ-tubulin in human colon cancer cells
著者:土屋 賢汰、五島 剛太
DOI:10.1083/jcb.202104114
URL:https://rupress.org/jcb/article/220/12/e202104114/212818/Microtubule-associated-proteins-promote

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 五島 剛太 教授
http://bunshi4.bio.nagoya-u.ac.jp/~tenure2/goshima.html