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数物系科学

2021.12.13

宇宙では、波から波へのエネルギー輸送をイオンが中継

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学宇宙地球環境研究所の三好 由純 教授、小路 真史 特任助教は、宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所の浅村 和史 准教授らとの共同研究により、宇宙空間において プラズマの波が、イオンとの相互作用を介して別の波へと変わる様子を、世界で初めて発見しました。
地球や惑星周辺の宇宙空間には希薄ながらもイオンや電子が存在します。これらのイオンや電子はエネルギーの低いものから高いものまで様々な状態で存在することが知られていますが、なぜこのような多様性が生まれるのかは分かっていません。私たちは「あらせ」衛星注1)の観測データに新しい解析手法を適用し、宇宙空間に存在する磁気音波と呼ばれる電波がイオンを温め、さらに、温められたイオンがまったく別のイオン波と呼ばれる電波を新しく作り出している証拠を見つけ出すことに世界で初めて成功しました。磁気音波はエネルギーの高いイオンによって生成されると考えられています。また、イオン波は、宇宙のイオンを散乱させ、プロトンオーロラ注2)と呼ばれるオーロラを光らせることができると考えられています。
今回の発見は、エネルギーや起源が異なるイオン・電子が電波を介してエネルギーをやり取りする過程の一端を実証的に観測したもので、宇宙空間に存在するイオン・電子のエネルギーの多様性を実証する重要な成果です。
本研究成果は、2021年12月11日午前2時(日本時間)付アメリカ物理学会速報誌「Physical Review Letters」に掲載されました。

 

【ポイント】

・「あらせ」衛星の観測データを詳細に解析し、宇宙空間で磁気音波と呼ばれる波がイオンを温めることで、全く別の電波を励起していることを世界で初めて発見した。
・磁力線の周りを高速で回転しながら進むイオンの速度と、電波の向きや強さを詳細に対応づけていく「波動粒子相互作用解析」の手法を新たに開発し、「あらせ」衛星のイオンと電波の観測データに適用することで、イオンと電波の間で受け渡されているエネルギー流量と受け渡しの方向を完全に特定した。
・宇宙空間ではほとんど衝突が起きず、そのままではイオン・電子の間でエネルギーのやり取りが行われないにもかかわらず、多様なエネルギーを持ったイオン・電子が同じ領域に同時に存在している。本研究は、その多様性を作り出す理由の一つとして考えられている、電波とイオンの連鎖的な反応によるエネルギーの流れの観測に世界で初めて成功したものである。今後、木星などの他の天体の探査においても、様々な種類の電波とイオン・電子への本研究で開発した手法の適用が可能になれば、宇宙空間におけるエネルギーの分配や循環過程の理解につながるものと期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)「あらせ」衛星
2016年12月20日にイプシロンロケット 2号機によって打ち上げられた、ジオスペースをその場観測によって探査する衛星。バン・アレン帯などの超高エネルギー粒子が蓄積されている領域を継続的に観測するため、非常に厳しい放射線環境の中ではあるが、現在も順調に観測を行っている。
注2)プロトンオーロラ
水素イオンが大気に向かって降りこみ、大気粒子と衝突することによって発生するオーロラ。電磁イオンサイクロトロン波が宇宙空間でイオンを散乱すると、散乱されたイオンの一部が大気に向かって降り込み、プロトンオーロラを発生させると考えられている。

 

【論文情報】

雑誌名: Physical Review Letters
論文タイトル:Cross-energy couplings from magnetosonic waves to electromagnetic ion cyclotron waves through cold ion heating inside the plasmasphere
著者: 
浅村 和史 宇宙航空研究開発機構 准教授
小路 真史 名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教
三好 由純 名古屋大学宇宙地球環境研究所 教授
笠原 禎也 金沢大学 教授
笠羽 康正 東北大学 教授
熊本 篤志 東北大学 准教授
土屋 史紀 東北大学 准教授
松田 昇也 金沢大学 准教授
松岡 彩子 京都大学 教授
寺本 万里子 九州工業大学 助教
風間 洋一 台湾中央研究院 訪問研究員
篠原 育 宇宙航空研究開発機構 准教授
DOI: 10.1103/PhysRevLett.127.245101
URL: https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.127.245101

                                     

【研究代表者】

宇宙地球環境研究所 三好 由純 教授
https://is.isee.nagoya-u.ac.jp/