TOP   >   医歯薬学   >   記事詳細

医歯薬学

2021.12.13

漢方薬(インチンコウトウ)の薬効と腸内細菌の関係を腸内細菌の代謝能およびメタボロームを用いて解明

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院 医学系研究科 腫瘍外科学の山下 浩正(やました ひろまさ)医員、江畑 智希(えばた ともき)教授、外科周術期管理学講座の横山 幸浩(よこやま ゆきひろ)特任教授らのグループは、株式会社ツムラと共同で漢方薬の一種である茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)※1 の薬効に腸内細菌が深く関わっていることをマイクロバイオームおよびメタボローム技術を活用して見出しました。
漢方薬は 5-6 世紀に中国から伝わり、日本の風土・民族特性に合わせて独自に発展してきた伝統薬であり、現在では医療用医薬品として用いられています。茵蔯蒿湯は、利胆作用を有する漢方薬として知られており、胆道ドレナージ※2 処置を必要とする閉塞性黄疸を伴う胆管がん患者において、茵蔯蒿湯服用後の胆汁排泄量が有意に増加する事が報告されています。茵蔯蒿湯の薬理作用には構成生薬である山梔子(サンシシ)※3 に含まれるジェニポシドの代謝物であるジェニピンが深く関わっていることが明らかとなっており、ジェニピン産生には腸内細菌の寄与が示唆されていましたが、臨床での関与は不明なままでした。今回の研究では、胆道ドレナージ処置後の閉塞性黄疸を伴う胆管がん患者さんよりご提供いただいた便を用いて腸内細菌のジェニピン産生能を測定し、茵蔯蒿湯服用後の薬効との関係をマイクロバイオームおよびメタボローム技術を用いて検討しました。便ジェニピン産生能は茵蔯蒿湯服用後 2 日目および 3 日目の胆汁排泄変化量(投与前との差分)と有意な正相関を示しました。また、便ジェニピン産生能は便性状(ブリストルスケールで評価)、優勢菌であるクロストリジウム目などの偏性嫌気性菌存在率と正相関する
ことがわかりました。
本研究の結果から、腸内細菌の個人差が茵蔯蒿湯の薬効の個人差に関わっており、患者の腸内環境を事前に把握する事で漢方薬のより効果的な使用が可能となる事が示唆されました。
本研究成果は、国際科学誌「Pharmacological Research」に掲載されました(2021 年 11 月 17日)。

 

【ポイント】

○ 胆道ドレナージを必要とする閉塞性黄疸を伴う胆管がん患者で、茵蔯蒿湯服用後の利胆作用において腸内環境が影響するかどうかを服用前の便の腸内細菌叢分布、有機酸量、および便ジェニピン産生能を用いて評価しました。
○ 便ジェニピン産生能には大きな個人差がありました。便ジェニピン産生能は、茵蔯蒿湯服用後2,3 日目の胆汁分泌量(服用前からの変化量)と正相関しました。
○ 便ジェニピン産生能は便性状(ブリストルスケール)と負の相関を示しました。すなわち、便性状が軟便傾向にあるほど便ジェニピン産生能は低いことが示されました。
○ 便ジェニピン産生能はクロストリジウム目などの偏性嫌気性菌の存在率と正相関し、ラクトバシラス目などの通性嫌気性菌と負相関しました。偏性嫌気性菌は正常な大腸において大多数を占める菌である事が知られています。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 茵蔯蒿湯:大黄(ダイオウ)、山梔子(サンシシ)、茵蔯蒿(インチンコウ)から構成される漢方薬。黄疸、肝硬変症、ネフローゼ、じんましん、口内炎などに用いられる。
※2 胆管ドレナージ:胆管閉塞部位の上流にカテーテルを挿入すること。
※3 山梔子:生薬の一種でクチナシの果実。きんとん、沢庵の着色料として食品添加物にも用いられる。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Pharmacological Research
論文タイトル:Predicting Inchinkoto efficacy, in patien ts with obstructive jaundice associated with malignant tumors, through pharmacomicrobiomics
著者:Hiromasa Yamashita1, Mitsue Nishiyama2, Katsuya Ohbuchi2, Hitomi Kanno2, Kazuaki Tsuchiya2, Junpei Yamaguchi1, Takashi Mizuno1, Tomoki Ebata1, Masato Nagino3, Yukihiro Yokoyama1,4
所属:
1 Division of Surgical Oncology, Department of Surgery, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Aichi, Japan
2 Tsumura Advanced Technology Research Labora tories, Tsumura & Co., Ami-machi, Ibaraki, Japan
3 Department of Gastrointestinal Surgery, Aichi Cancer Center, Nagoya, Aichi, Japan
4 Division of Perioperative Medicine, Departme nt of Surgery, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Aichi, Japan
DOI:https://doi.org/10.1016/j.phrs.2021.105981
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Pha_Res_2021117en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 横山 幸浩 特任教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/endowed-chair/surgical-perioperative/