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医歯薬学

2021.12.21

術前化学療法を受ける食道癌患者におけるシンバイオティクス摂取の有効性を確認 ~シンバイオティクス摂取によるバクテリアルトランスロケーションおよび重度胃腸障害の抑制~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科外科周術期管理学の横山 幸浩 特任教授と株式会社ヤクルト本社(社長 成田 裕)は、シンバイオティクス摂取が術前化学療法を受ける食道癌患者のバクテリアルトランスロケーション※1 (以下、BT)と重度の胃腸障害を抑制することを確認しました。
食道癌の治療では、抗癌剤を用いた化学療法を行った後に手術を行うのが一般的ですが、食道癌の開腹開胸を伴う手術は侵襲が大きく、術後に重篤な臓器障害や感染性合併症が生じ、患者の予後に大きな影響を与えることが問題となっています。食道癌患者では手術によって術後感染症の一因となる BT が誘発されますが、術前・術後の管理にシンバイオティクス※2 を用いることにより、BT を抑制できることがこれまでの研究で確認されています。
一方で、術前化学療法も胃腸粘膜に強い影響を及ぼすため、BT を生じる可能性が考えられますが、術前化学療法による BT 発生については明らかにされていませんでした。
そこで、本研究では術前化学療法による BT の発生を明らかにし、さらにその BT をシンバイオティクスで防御できないか、食道癌患者を対象とした無作為化比較試験※3 にて検証しました。
その結果、シンバイオティクスを摂取しなかった患者では、血液中および腸間膜リンパ節から腸内細菌が検出され、BT の発生が確認されましたが、シンバイオティクスを摂取した患者では菌はほとんど検出されず、BT が抑制されていました。さらに、シンバイオティクス摂取により、重度の胃腸障害の軽減や腸内環境の改善も確認されました。
シンバイオティクスの摂取は術前化学療法を受ける食道癌患者に対し、腸内環境の改善を介して、癌治療中の負担を軽減する可能性があり、今後、医療領域での更なる活用が期待されます。
本研究成果は、学術雑誌「Clinical Nutrition」(2021 年 10 月 12 日付)に掲載されました。
*本研究では、シンバイオティクスとして乳酸菌ラクチカゼイバチルス パラカゼイ シロタ株を含む発酵乳飲料、ビフィズス菌ビフィドバクテリウム ブレーベ ヤクルト株を含む発酵乳飲料、ガラクトオリゴ糖液糖を用いています。

 

ポイント

○食道癌患者では、抗癌剤を用いた化学療法を行った後に手術を行うのが一般的ですが、食道癌の術前化学療法や手術は患者への負担が大きく、有害事象や感染性合併症が生じ、患者の予後に大きな影響を与えることが問題となっています。
○食道癌患者では手術によって術後感染症の一因となる BT が誘発され、術前・術後の管理にシンバイオティクスを用いることにより、BT を抑制できることがこれまでの研究で確認されています。
一方で、手術前に行う術前化学療法による BT 発生は確認されていないことから、本研究では術前化学療法による BT 発生およびシンバイオティクス摂取の BT および胃腸障害への影響を検証しました。
○本研究により、食道癌患者において術前化学療法による BT の発生が確認され、さらにシンバイオティクス摂取による BT および胃腸障害の軽減と腸内環境の改善が確認されました。
○シンバイオティクスの摂取は術前化学療法中の患者の負担を軽減する可能性が見出され、今後、医療領域での更なる活用が期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

用語説明

※1 バクテリアルトランスロケーション
腸管粘膜を介して生きた腸内細菌が腸管内から粘膜固有層、さらには腸管リンパ節や他の臓器に移行し感染を引き起こすことです。本研究では、血液または腸間膜リンパ節にて細菌が検出されることと定義します。
※2 シンバイオティクス
十分量を摂取したときに宿主に有益な効果を与える生きた微生物である「プロバイオティクス」と、腸内有用菌の増殖を促して腸内フローラを改善・維持し、人の健康維持増進に役立つ難消化性の食品成分(食物繊維やオリゴ糖など)である「プレバイオティクス」を組み合わせたものです。
※3 無作為化比較試験
研究の対象者を 2 つ以上のグループに無作為に分け、治療法などの効果を客観的に検証する試験方法です。 無作為化により検証したい方法以外の要因がバランスよく分かれるため、公平に比較することができます。


【論文情報】

雑誌名:Clinical Nutrition
論文表題:Impact of synbiotics treatment on bacteremia induced during neoadjuvant chemotherapy for esophageal cancer
著者:Masahide Fukayaa, Yukihiro Yokoyamaa, Hiroaki Usuia, Hironori Fujiedaa, Yayoi Sakatokua, Takamasa Takahashia, Kazushi Miyataa, Mai Niikurac, Takuya Sugimotoc, Takashi Asaharac, Masato Naginod, Tomoki Ebataa
所属:a Division of Surgical Oncology, Department of Surgery, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
b Division of Perioperative Medicine, Department of Surgery, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
c Yakult Central Institute, Tokyo, Japan
d Aichi Cancer Center, Department of Gastrointestinal Surgery, Nagoya, Japan
DOI:https://doi.org/10.1016/j.clnu.2021.10.004


English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Cli_Nut_20211012en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 横山 幸浩 特任教授

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/endowed-chair/surgical-perioperative/