国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科有機・高分子化学専攻(未来社会創造機構マテリアルイノベーション研究所兼務)の野呂 篤史 講師らの研究グループは、日本ゼオン株式会社と共同開発したイオン注1)性のゴム材料(熱可塑性注2)エラストマー注3))が、自動車のバンパーや小型船舶の船体などにも使用されている高強度複合樹脂材料、いわゆる繊維強化プラスチック注4)(FRP)よりも耐衝撃性注5)に優れることを新たに明らかにしました。
熱可塑性エラストマーは、金属やセラミックスなどの硬い材料よりも軽量かつ柔軟性・伸縮性・加工性も兼ね備えたゴム材料です。自動車の内装・外装部材用途を中心に利用されており、全世界で年間2兆円の市場規模を有するとも言われています。最近では、強度注6)と靭性注7)を兼ね備えた材料への市場ニーズの高まりに合わせてさらなる研究・開発が進められており、野呂講師らのグループも日本ゼオン株式会社と共同で、世界トップクラスの高靭性を示すイオン性の熱可塑性エラストマー(i-SIS注8))を開発していました。
今回の研究では、日本ゼオン株式会社と共同開発したi-SISの耐衝撃性を直接的に評価しました。従来型の非イオン性の熱可塑性エラストマー(SIS)の耐衝撃性と比較したところ、3.1~4.4倍高いことが分かりました。また、軽量でありながらも高強度を示すガラス繊維強化プラスチック注9)(GFRP)に対しては0.86~1.22倍の耐衝撃性を示しました。i-SISは軽量なゴム材料であるにも関わらず、高強度複合樹脂材料と同定度、もしくはそれを凌ぐ耐衝撃性を示すことが明らかになりました。耐衝撃性が要求される移動体のボディや関連部材等での利用により、移動体の軽量化や、軽量化を通じて低燃費化にも寄与し、脱炭素社会実現への貢献も期待されます。
本研究成果は、2021年12月20日付でアメリカ化学会出版が発行するオープンアクセス誌「ACS Omega」に掲載されました。また、雑誌の表紙でも研究内容が取り上げられる予定です。
・日本ゼオン株式会社と共同開発したイオン性の熱可塑性エラストマー(i-SIS)の耐衝撃性を直接的に評価。
・i-SISの耐衝撃性は、従来型の非イオン性熱可塑性エラストマー(SIS)の耐衝撃性と比べて3.1~4.4倍。
・i-SISの耐衝撃性は、高強度複合樹脂材料であるガラス繊維強化プラスチック(GFRP)の耐衝撃性を凌ぐ。
・耐衝撃性が要求される移動体のボディや関連部材等でi-SISが利用されることで、移動体の軽量化、軽量化を通じて低燃費化にも寄与し、脱炭素社会の実現にも貢献。
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注1)イオン:
電荷を帯びた原子、または原子団。負に電荷を帯びたものは陰イオン、正に電荷を帯びたものは陽イオン。陰イオンと陽イオンの間では比較的強いイオン(間)相互作用を生じる。
注2)熱可塑性:
加熱により可塑性を生じること。可塑性とは外力により物体を変形させ、その後外力を除いてももとの形に戻らない性質。
注3)熱可塑性エラストマー:
thermoplastic elastomer(略称:TPE)。プラスチック成分とゴム成分(エラストマーとほぼ同義)の両方を化学結合で繋いだ複合ポリマーからなる熱可塑性の材料。スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマーなどがある。
注4)繊維強化プラスチック:
fiber-reinforced plastic(略称FRP)。繊維と樹脂とを複合化させることで得られる高強度材料。
注5)耐衝撃性:
物体が外部から衝撃を受けるとき、どの程度の衝撃に耐えられるかに関する性質。
注6)強度:
通常は引張強度を意味する。引張強度とは、材料を単純に引っ張ったときに発生する最大の応力(試料断面積当たりの力、単位はMPa)。
注7)靭性:
破壊のされにくさの程度。外力に対する材料の粘り強さ。反意語は脆性(脆さ)。タフネスともいう。材料を単純に引っ張ったときは、材料が破断するまでに必要とされるエネルギーに相当。強度と靭性を合わせもつことで強靭さを発現。
注8)i-SIS:
ポリスチレン-b-ポリイソプレン-b-ポリスチレン(SIS)ブロックポリマーのポリイソプレン部にイオン性官能基を導入したもの。イオン性の熱可塑性エラストマー。Polymer 2021, 217, 123419.(DOI:10.1016/j.polymer.2021.123419)参照。
注9)ガラス繊維強化プラスチック:
glass fiber-reinforced plastic(略称GFRP)。ガラス繊維と樹脂とを複合化させることで得られる高強度材料。
雑誌名:ACS Omega
論文タイトル:Highly Impact-Resistant Block Polymer-Based Thermoplastic Elastomers with an Ionically Functionalized Rubber Phase
梶田貴都(名古屋大学研究員)、野呂篤史(名古屋大学講師)、小田亮二(日本ゼオン)、橋本貞治(日本ゼオン)
DOI: 10.1021/acsomega.1c05609
大学院工学研究科 野呂 篤史 講師
https://phys-chem-polym.chembio.nagoya-u.ac.jp/member-noro.html