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人文学

2022.01.05

ホモ・サピエンスがユーラシアに拡散した上部旧石器初期の年代と文化動態を解明 ~ヨルダンの遺跡から1万点の石器を発掘調査~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学博物館・大学院環境学研究科の門脇 誠二 講師、大学院環境学研究科の廣瀬 允人、須賀 永帰 博士後期課程学生の研究グループは、産業技術総合研究所の田村 亨 主任研究員(東京大学客員准教授)、名古屋市科学館の木田 梨沙子 学芸員、東京大学の大森 貴之 特任研究員らとの共同研究で、現生人類(ホモ・サピエンス)がユーラシアに拡散した上部旧石器初期の年代と人類行動の一端を明らかにしました。
私たち現生人類は、20万年前頃にアフリカで出現しましたが、5~4万年前頃にユーラシアへ拡散しました。本研究では、現生人類がユーラシアに拡散した起点となった中東のヨルダンにあるトール・ファワズ遺跡注1)の調査を実施し、1万点以上の石器などの遺物を収集しました。石器の形態や製作技術を分析すると共に、遺物の堆積年代を測定した結果、現生人類の広域拡散に伴った石器文化(上部旧石器初期)がこの遺跡に残されており、その年代は4.5万~3.6万年前であることを明らかにしました。これにより、トール・ファワズ遺跡に残された石器や海産貝殻などの遺物から、当時の現生人類の道具製作技術や資源獲得行動について調査することで、環境適応や人口増加の過程や要因に関する解明が期待されます。
本研究成果は、2021年12月29日付Springer Nature社(ドイツ・イギリス)の科学誌「Journal of Paleolithic Archaeology」にオンライン公開されました。
本研究は、文部科学省 科学研究費補助金新学術領域研究(2016~2020)と基盤研究A(2020~2024)の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・アフリカで出現した現生人類(ホモ・サピエンス)が、5~4万年前頃にユーラシアへ拡散した起点となった中東において遺跡調査を行い、1万点以上の石器などの遺物を収集した。
・現生人類の広域拡散に伴った石器文化(上部旧石器初期)が、トール・ファワズ遺跡に残されており、その年代は4.5万~3.6万年前であることを明らかにした。
・遺跡に残された石器や海産貝殻などの遺物から、当時の現生人類の道具製作技術や資源獲得行動の特徴を調べることにより、「なぜ現生人類が地球上で唯一の人類となったのか」、という人類史上の大きな問題の解明が進むことが期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)トール・ファワズ遺跡:
中東のヨルダン国南部の岩陰遺跡。1980年代に発見され、上部旧石器時代の遺跡として知られていたが、その年代や石器文化の位置づけは不明であった。今回の研究により、この遺跡に残る石器が、現生人類の広域拡散に伴った石器文化(上部旧石器初期)に属し、その年代が4.5万~3.6万年前であることが明らかになった。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of Paleolithic Archaeology
論文タイトル:Lithic Technology and Chronology of Initial Upper Paleolithic Assemblages at Tor Fawaz, Southern Jordan
著者:Seiji Kadowaki(門脇誠二)a, Toru Tamura(田村亨)b,, Risako Kida(木田梨沙子)c, Takayuki Omori(大森貴之)d, Lisa A. Maher e, Marta Portillo f, Masato Hirose(廣瀬允人)c, Eiki Suga(須賀永帰)c, Sate Massadeh g, and Donald O. Henry h
 a 名古屋大学博物館・大学院環境学研究科
 b 産業技術総合研究所・東京大学
 c 名古屋大学大学院環境学研究科
 d 東京大学総合研究博物館
 e カリフォルニア大学バークレー校人類学科
 f スペイン国立研究協議会 考古学・人類学部門
 g ヨルダン考古局
 h タルサ大学人類学科
DOI: 10.1007/s41982-021-00107-3
URL: https://link.springer.com/article/10.1007/s41982-021-00107-3

 

【研究代表者】

名古屋大学博物館/大学院環境学研究科 門脇 誠二 講師
http://www.num.nagoya-u.ac.jp/outline/staff/kadowaki/laboratory/index.html