TOP   >   医歯薬学   >   記事詳細

医歯薬学

2022.02.01

16p11.2 重複患者に見られる多様な精神症状 〜患者 4 例のケースシリーズ〜

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科精神医学の尾崎 紀夫 教授、久島 周 病院講師、大学院生の林 優らの研究グループは、染色体 16p11.2 領域のコピー数が通常の 2 コピーから 3 コピーに増える変化(16p11.2 重複※1)を持つ統合失調症(SCZ)患者2例と自閉スペクトラム症(ASD)患者2例を同定し、後方視的に臨床経過を調査しました。その結果、この 4 例の臨床経過の中で、主診断以外の多様な精神症状を呈すること、また SCZ 患者 2 例は薬物治療に抵抗性を示すことを確認しました。
近年のゲノム研究から、精神疾患の強い発症リスクとなるゲノムバリアント(ゲノムの個人差)が複数見つかっています。その1つである 16p11.2 重複は、SCZ、ASD、知的能力障害、双極性障害等の発症リスクに関連することが報告され、疾患横断的なリスクバリアントの 1 つとして知られていました。一方で、本重複を有する個々の患者について、診断名以上の詳細な臨床情報やその経時的変化、治療反応性に関する報告はほとんどありませんでした。
尾崎紀夫教授らの研究グループは、これまでの先行研究で、SCZ と ASD の患者を対象にアレイ CGH法※2 を用いて 16p11.2 領域のゲノムコピー数バリアント(copy number variant; CNV)※3 を解析し、SCZ 患者 2 例と ASD 患者 2 例に 16p11.2 重複があることを同定しました。今回、患者 4 例の詳細な臨床経過を後方視的に調査することで、16p11.2 重複が、患者間の精神科診断の多様性だけでなく、患者一人一人の精神症状の多様性にも関与する可能性があることが示唆されました。本研究成果は、16p11.2重複の診断や病態理解の手がかりになることが期待されます。
本研究成果は、学術雑誌「Psychiatry and Clinical Neurosciences 」の電子版(2021 年 12 月 23 日版)に掲載されました。

 

【ポイント】

● 16p11.2 重複の日本人患者4例の詳細な精神医学的な表現型について報告しました。
● 16p11.2 重複の精神症状が、一人の患者の中でも可変的に様々に変化することを確認しました。
● 本研究成果は、16p11.2 重複の臨床的な治療法の確立と、病態機序の解明に繋がることが期待
されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 16p11.2 重複:
16 番染色体短腕の 11.2 領域(約 500 キロ塩基のサイズ)が、通常 2 コピーのところ、3 コピーに増える変化を指す。この領域には、20~30 の遺伝子が含まれており、その一部は脳の発達に関わる重要な役割を持っている。本重複によって、当該遺伝子のコピー数が増えることで、多様な神経発達症や精神疾患、てんかんや小頭症などの身体疾患に関与すると考えられる。

 

※2 アレイ CGH 法:
ゲノムコピー数バリアント(CNV)を全ゲノムで検出する方法。

 

※3 ゲノムコピー数バリアント(CNV):
染色体上の特定の領域が、通常 2 コピーあるところ、1 コピー以下(欠失)、あるいは 3 コピー以上(重複)となっている現象である。CNV の領域に含まれる遺伝子の発現や機能に影響が生じることがあり、一部の CNV は疾患の発症に関与し(病的 CNV)、その代表例が統合失調症や ASDなどの精神疾患である。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Psychiatry and Clinical Neurosciences
論文タイトル:Variable psychiatric manifestations in patients with 16p11.2 duplication: A case series of four patients
著者:Yu Hayashi1,¶, Itaru Kushima*1,2,¶, Branko Aleksic1, Tetsu Senaha3, Norio Ozaki1
所属:1 Department of Psychiatry, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2 Medical Genomics Center, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan
3 Department of Psychiatry, KACHI Memorial Hospital, Toyohashi, Japan
DOI:https://doi.org/10.1111/pcn.13324

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Psy_Clin_Neu_220201en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 尾崎 紀夫 教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/seisin/