名古屋大学大学院医学系研究科地域医療教育学寄附講座の岡崎研太郎特任准教授と高橋徳幸特任助教らは、日本人の 2 型糖尿病*1 患者においてインスリン治療を開始する動機付けとなるテーマを報告しました。
糖尿病の患者にとって、インスリン注射を開始するには心理的なハードルが高いことが知られています。今回、7 カ国の国際共同研究に参加した日本人患者のうち 6 人に電話インタビューを実施し、インスリン注射開始前後の考えや認識、関連する要因の理解と、反応の背後にある理由を探索しました。インタビューデータは、名古屋大学教育学部の大谷尚名誉教授が開発した Steps for Coding and Theorization(SCAT)と呼ばれる質的研究手法を用いて分析しました。
分析の結果、インスリン導入に影響を与えるテーマとして、1.インスリンが適切な治療法であるという医療者からのアドバイス、2.インスリンペン・針の使い方や注入方法に関する医療者によるデモンストレーション、3.インスリンに対する諦念/降伏/受容の 3 つが抽出されました。
インスリン注射を勧める際には、医療者はこれら 3 つのテーマに基づき、インスリンの有用性を説明し、注射の手順を実演して説明することが重要だと明らかになりました。また、治療開始の理由として、インスリンに対する諦念/降伏/受容が確認されましたが、これは、「インスリン注射以外の選択肢はないと感じる」「しかたがない」などの発言に基づいており、日本人患者に特有のテーマとして注目に値するものと考えられました。
本研究は、インスリン注射の開始に消極的な日本人 2 型糖尿病患者に対して、医療者が基礎インスリン療法を開始する際に、重要となる情報を提供するものです。
本研究成果は、2022 年 3 月 4 日に学術雑誌「Primary Care Diabetes」のオンライン速報版にて掲載されました。
なお、この研究は、イーライリリー・アンド・カンパニー(米国)とベーリンガーインゲルハイム(ドイツ)からの研究費の支援を受けて実施されました。
○ 電話インタビューにより、日本人 2 型糖尿病患者におけるインスリン開始の動機づけとなる要因を明らかにした。
○ 医療従事者の行動は、インスリン開始に対する消極性を緩和するのに役立つ。
○ 日本人では、インスリンを開始する理由として、諦め/降伏/受容という要因も見いだされた。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
*1 2 型糖尿病:もっとも一般的な糖尿病の種類。日本人の糖尿病患者は、その多くが 2 型糖尿病と診断されています。
掲雑誌名:Primary Care Diabetes
論文タイトル:Key factors for overcoming psychological insulin resistance: a qualitative study in Japanese people with type 2 diabetes.
著者:Kentaro Okazakia, Noriyuki Takahashia, Tomotaka Shingakib , Magaly Perez-Nievesc , Heather Stuckeyd
所属:
a: Nagoya University Graduate School of Medicine
b: Eli Lilly Japan K.K.
c: Eli Lilly and Company
d: Pennsylvania State University, College of Medicine
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Pri_220316en.pdf
大学院医学系研究科 岡崎 研太郎 特任准教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/ecom/