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農学

2022.03.02

何故、サツマイモは痩せた土地でも生育が良いのか? ~病原菌由来の遺伝子を用いて土壌中の有用微生物を誘き寄せている可能性を発見~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の田中 愛子 研究員、竹本 大吾 准教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の田中 伸和 教授、荒川 賢治 准教授らの研究グループは、サツマイモが痩せた土地での生育に適している謎の一端を解明しました。
サツマイモは、江戸時代の飢饉や戦中戦後の食糧難の時代に痩せた土地でも育つ「救荒作物」として広く栽培されてきました。しかし、何故、サツマイモが痩せた土地で健全に育つことが出来るのか?その理由は殆ど解明されていません。近年、サツマイモの祖先種が植物病原菌から獲得した遺伝子が、世界中の栽培種において維持されていることが明らかになりましたが、その遺伝子の役割は不明でした。本研究では、サツマイモが病原菌から獲得した遺伝子から作られる酵素が、土の中の特定の微生物を誘引する働きを持つ物質を合成する機能をもつことを明らかにしました。この結果から、サツマイモが病原菌由来の遺伝子を利用して、土壌微生物相をコントロールしている可能性が示されました。植物の根圏では、病原性微生物、菌根菌や窒素固定菌などの共生微生物、植物成長促進菌、あるいは腐生菌など植物の生育に影響を及ぼす様々な微生物が混在しており、根圏の微生物相が好適であることは植物の生存と繁殖に極めて重要です。本研究により、サツマイモの祖先種が獲得し、維持されてきた病原菌由来の遺伝子が、植物の根圏微生物相に影響を及ぼすことを示されました。現在、IbACS注1)遺伝子を失って生育が低下したサツマイモと、通常のサツマイモの根圏微生物相の比較により、サツマイモの貧栄養条件での生育を促進する微生物を探索しており、そのような微生物が単離されれば、広く農業に応用できると期待されます。
本研究成果は、2022年1月23日付アメリカ科学雑誌「Molecular Plant-Microbe Interaction」誌の2022年1月号に掲載されました。

 

【ポイント】

・サツマイモは、痩せた土地でも生育が可能な「救荒作物」として、江戸時代の飢饉や戦中戦後の食糧難の時代に広く栽培されてきた。
・サツマイモの祖先に病原菌が感染し、病原菌の遺伝子が植物に移動した。この遺伝子が現在のすべてのサツマイモ栽培種にも残っている。
・本研究から、サツマイモは病原菌から獲得した遺伝子を使って、土壌中の有用な微生物を引き寄せることで、痩せた土地でも生育が可能になっている可能性が示された。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)IbACS:サツマイモ(Ipomoea batatas)のアグロシノピン合成酵素遺伝子(Agrocinopine synthase)。スクロースとL-アラビノースから、そのホスホジエステルであるアグロシノピンAを生合成する。サツマイモの祖先種にAgrobacterium属の病原菌が感染した際に、植物のゲノムDNAに取り込まれ、現在の全てのサツマイモ栽培種に保存されている。

 

【論文情報】

雑誌名:Molecular Plant-Microbe Interactions
論文タイトル:Production of agrocinopine A by Ipomoea batatas agrocinopine synthase in transgenic tobacco and its effect on the rhizosphere microbial community.
著者:Tanaka A., Ryder M., Suzuki T., Uesaka K., Yamaguchi N., Amimoto T., Otani M., Nakayachi O., Arakawa K., Tanaka N., and Takemoto D.
DOI:10.1094/MPMI-05-21-0114-R
URL:https://apsjournals.apsnet.org/doi/10.1094/MPMI-05-21-0114-R

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 竹本 大吾 准教授
https://nagoyaplantpathol.wixsite.com/nagoya-plant-pathol