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工学

2022.02.28

金属3Dプリンターによる超硬合金製のセンシング金型の開発と性能の実証に成功!

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学の小橋 眞 教授、高田 尚記 准教授、 鈴木 飛鳥 助教は、旭精機工業株式会社(尾張旭市)、株式会社フジミインコーポレーテッド(岐阜県各務原市)及びあいち産業科学技術総合センターとの共同研究で、3Dプリンターを用いて内部構造を有する超硬合金の金型の開発に成功しました。
愛知県及び公益財団法人科学技術交流財団では、大学等の研究シーズを活用したオープンイノベーションにより、県内主要産業が有する課題を解決し、新技術の開発・実用化や新産業の創出を目指す産学行政連携の研究開発プロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクトⅢ期注1)」を2019年8月から実施しています。
この超硬合金の金型の開発は、本プロジェクトのうち、「革新的モノづくり技術開発プロジェクト注2)」の研究テーマの一つである「積層造形技術の高度化と先進デザインの融合による高機能部材の創製注3)」において行われました。
本研究開発では、金属3Dプリンターに適した超硬合金粉末を新たに開発したほか、冷却や計測に必要な内部構造を有した超硬合金の金型の作製に成功しました。また、開発した金型を用いて、製品製造ラインによる連続成形試験を実施した結果、製品製造への適用が可能であることを確認しました。これは世界的にも類例のない成果です。
本成果による金型技術は、リチウムイオン電池向け製品等をはじめたとした大型部品の精密成型への応用がひろがることにより、自動車産業をはじめとする当地域の主要産業において、製品の性能向上、軽量化、製造品質の向上等、多くのメリットが創出されることが期待されます。
 

 

【ポイント】

(1)超硬合金粉末を用いた造形技術開発(株式会社フジミインコーポレーテッド)
株式会社フジミインコーポレーテッドでは、超硬合金粉末を用いて金属3Dプリンター(LPBF法)を用いて造形するために必要な、金属3Dプリンターに適した特性の粉末を開発しました。具体的には、最適な原材料の調合を行うとともに、粒度分布、粒子密度、流動性を調整しました。
さらに、名古屋大学及びあいち産業科学技術総合センターとともに、レーザ照射をはじめとする造形条件や造形後の熱処理方法について検討を行い、最適条件を見出しました。
これらの結果を基に、株式会社フジミインコーポレーテッドでは金属3Dプリンターを導入して、造形試験による研究開発をさらに進め、造形中の亀裂等の発生を防ぎつつ、様々な形状の超硬合金製の造形物が得られるようになりました。
このことは新規性の高い知見であり、この技術により高密度・高硬度な超硬合金製の金型を作製することが可能となったことで金型の長寿命化が期待できます。

 

(2)インライン計測が可能な超硬合金金型の開発及び性能実証(旭精機工業株式会社)
旭精機工業株式会社では、得られた最適化原料、条件をもとにして金属3Dプリンターにより造形(日本積層造形株式会社)した金型の表面加工及び、詳細な品質確認等による研究開発を行いました。その結果、内部にセンサーや冷却配管を設置できる、複雑な空間構造を内蔵する超硬合金製の深絞りプレス成形金型を作製することに成功しました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1) 知の拠点あいち重点研究プロジェクトⅢ期
付加価値の高いモノづくり技術の研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に実施している産学行政の共同研究開発プロジェクト。2011年度から2015年度までは「重点研究プロジェクトⅠ期」、2016年度から2018年度までは「重点研究プロジェクトⅡ期」を実施した。2019年8月からは「重点研究プロジェクトⅢ期」を実施。

 

「重点研究プロジェクトⅢ期」の概要

 

実施期間
2019年度から2021年度まで

 

参画機関
19大学 12研究開発機関等 106社(うち中小企業68社)
(2022年1月時点)

 

プロジェクト名
・近未来自動車技術開発プロジェクト(プロジェクトV)
・先進的AI・IoT・ビッグデータ活用技術開発プロジェクト(プロジェクトI)
・革新的モノづくり技術開発プロジェクト(プロジェクトM)

 

注2) 革新的モノづくり技術開発プロジェクト(通称:プロジェクトM)

 

概要
モノづくり愛知の根幹をなす基盤技術の更なる高度化のため、マテリアルズ・インフォマティックス等の先進的なツールを用いた材料・プロセスの開発や高度な加工技術、その裏付けとなるシンクロトロン光をはじめとした評価技術の開発に取り組む。

 

研究テーマ
【分野】高機能材料(マテリアルズ・インフォマティクス)
① プロセス開発型MI技術の高度化と人材育成を伴う革新的素材開発
② MIと放射光を活用した中空粒子中量産と機能性材料の加速的開発
【分野】シンクロトロン光利用(材料データベース・可視化)
③ 地域先端計測基盤とAIの統合による機能材料探索の新展開
④ 革新的シンクロトロン光CT技術による次世代モノづくり産業創成
【分野】高精度加工・表面処理(切削・めっき・接合)
⑤ 次世代航空機/自動車部品用高機能材料の高精度・高能率加工
⑥ ナノカーボン材料複合分散による高機能化材料の電解析出技術
⑦ 革新的マルチマテリアル接合による軽量・高性能モビリティの実現
【分野】積層造形(金型・新工法)
⑧ 積層造形技術の高度化と先進デザインの融合による高機能部材の創製
⑨ 新積層造形技術の開発と短時間試作/超ハイサイクル成形への応用

 

参画機関 8大学2研究開発機関等43企業(うち中小企業27社)(2022年1月時点)

 
注3) 積層造形技術の高度化と先進デザインの融合による高機能部材の創製

 

研究リーダー
名古屋大学 教授 小橋 眞 氏

 

事業化リーダー
旭精機工業株式会社 鈴木 裕睦 氏

 

内容
Ⅰ.最適温度制御(冷却/加温)金型の開発
① アルミダイカスト金型:所望の強度と温度を両立させるコンフォーマル冷却配管金型の最適設計とその金属積層造形および良好なアルミ溶湯流れを確保するカーボンコーティング
② 深絞りプレス成形金型:金型(ストリッパーシンブル)としての所望の強度と温度を両立させるコンフォーマル冷却配管の最適設計と金属積層造形および超硬製パンチの積層造形
③ ゴム成形金型およびプラスチック射出成型金型
Ⅱ.実現したい部材のトポロジー最適化など科学的デザイン手法と安定した金属積層造形技術の構築科学的デザイン手法を活用できる人材の強化および積層造形プロセスのその場観察と造形物の機械的特性、内部組織等の統合的解析

 

参加機関
〔企業〕旭ゴム化工株式会社、旭精機工業株式会社、株式会社名古屋多田精機、日比野工業株式会社、株式会社フジミインコーポレーテッド、トヨタ自動車株式会社、株式会社メックインターナショナル
〔大学〕名古屋大学、早稲田大学
〔公的研究機関〕公益財団法人科学技術交流財団、あいち産業科学技術総合センター

 

【研究代表者】

http://www.numse.nagoya-u.ac.jp/P6/kobashi/