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生物学

2022.03.09

植物は雨に打たれると免疫を活性化する

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学遺伝子実験施設の多田 安臣 教授、野元 美佳 助教、名古屋大学大学院理学研究科の松村 護 博士後期課程学生らの研究グループは、植物が雨を感知して免疫を活性化する仕組みを新たに発見しました。
植物は、ヒトなどの動物と同様に高度な免疫系を保有しており、植物が細菌やウイルスなどを感知すると、免疫系を活性化することで病原体の感染を防除します。植物に感染する病原体は、その多くが雨によって媒介されることが知られています。したがって、雨は植物の生存に必須である一方、危険因子であるとも言えます。しかし、植物が雨に対してどのような応答を誘導するのかは未解明でした。
本研究では、植物は、雨を葉の表面に存在する毛状の細胞(トライコーム)によって感知すると、病原体の襲来を予見し、免疫系を活性化することを明らかにしました。トライコームは、雨に打たれると周辺の葉組織にカルシウムウェーブ注1)を誘導し、免疫抑制性のCAMTA転写因子注2)を不活化することが示されました。これによって、免疫関連の遺伝子群を誘導し、病原体の感染行動は抑制されます。これらの現象はトライコームを持たない変異体では認められないことも明らかになりました。
この成果は、2022年3月8日19時(日本時間)付イギリス科学雑誌「Nature Communications」オンライン版で発表されました。
 

 

【ポイント】

・植物は、雨に打たれると免疫系を活性化する。
・葉の表面に存在する毛状の細胞(トライコーム)は、物理的な刺激を感知する感覚器として機能することを明らかにした。
・降雨に伴う病害発生を抑制する農法の開発に期待できる。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)カルシウムウェーブ:
局所で生じたCa2+濃度上昇がウェーブ状に周囲に伝搬する現象

 

注2)CAMTA転写因子:
細胞内Ca2+濃度の上昇によって制御される転写制御因子

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Mechanosensory trichome cells evoke a mechanical stimuli?induced immune response in Arabidopsis thaliana
著者:Mamoru Matsumura*, Mika Nomoto*,**, Tomotaka Itaya, Yuri Aratani, Mizuki Iwamoto, Takakazu Matsuura, Yuki Hayashi, Tsuyoshi Mori, Michael J. Skell, Yoshiharu Y. Yamamoto, Toshinori Kinoshita, Izumi C. Mori, Takamasa Suzuki, Shigeyuki Betsuyaku, Steven H. Spoel, Masatsugu Toyota, Yasuomi Tada**
(*共同第一著者、**共同責任著者)
DOI:10.1038/s41467-022-28813-8
URL: https://www.nature.com/articles/s41467-022-28813-8

 

【研究代表者】

大学院理学研究科・遺伝子実験施設 多田 安臣 教授
https://www.gene.nagoya-u.ac.jp/index.html