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生物学

2022.03.23

朝食を食べないと、体重が増えるだけではなく、筋肉量も低下することを解明

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の小田 裕昭  准教授らの研究グループは、朝食欠食注1)が、体重を増加させてメタボリックシンドローム注2)へつながる可能性を大きくするだけでなく、筋肉を萎縮させてロコモティブシンドローム注3)やサルコペニア注4)の危険性も増大させることを発見しました。
これまで、朝食を食べたほうが健康になるのか、食べない方が良いのかという「朝食論争」が長年続いてきました。多くの研究が、朝食習慣は健康に良いことを示しており、体重を抑える作用があると考えられてきました。2018年本研究グループは、高脂肪食を食べさせた実験動物(ラット)を使い、朝食欠食が、体内時計注5)の異常をきたした結果として、体重増加をもたらすことを遺伝子レベルで明らかにしました注6)。今回は、マウスを使用し普通食を摂取した場合でも、朝食欠食が体内時計の異常をもたらし体重増加することを確認、筋肉萎縮ももたらすことを初めて明らかにしました。この結果は、朝食欠食により各臓器の時計が異常になるためであることが分かりました。
本研究では、朝食欠食の習慣が、メタボリックシンドロームの危険性を増加させるだけでなく、ロコモティブシンドロームやサルコペニアの危険性を増大させることを明らかにしました。朝食は、子供には十分な栄養素を供給する役割があり、成人にはメタボリックシンドロームを抑える効果が期待され、更に老年期には筋肉萎縮を抑制してロコモティブシンドロームやサルコペニアの危険性を抑える作用があることが明らかとなりました。
本研究成果は、2022年3月11日付イギリス科学雑誌「British Journal of Nutrition」オンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

・朝食欠食は、マウスの脂肪組織の重量を増加させて体重を増加させた。
・朝食欠食は、マウスの筋肉量を低下させることを初めて明らかにした。
・朝食欠食は、メタボリックシンドロームの危険性を増大させるだけでなく、ロコモティブシンドロームやサルコペニアの危険性も増大させることが明らかになった。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

 

注1)朝食欠食:
習慣的に朝食を食べないことを指す。若年の男性で多く見られる。ダイエット目的で、積極的に食べない人もいる。

 

注2)メタボリックシンドローム:
生活習慣病の前段階の未病状態であり、インスリン抵抗性を基盤とした状態を指す。食事や運動に気を使うことによって、可逆的に戻ることが期待される状態である。一般に太っていることを指す言葉のように使われることがあるが、必ずしも正しくない。日本人の場合、太っていない人でもインスリン抵抗性がありメタボリックシンドロームと評価される場合がある。そのような人は、痩せていても糖尿病になることがある。

 

注3)ロコモティブシンドローム:
運動器の障害が起こり、移動機能が低下することを指す。筋肉や骨、関節、神経のなどの機能低下により起きる。加齢に伴う筋肉の萎縮であるサルコペニアによっても起きる。また、身体的フレイルと関係が深い。


注4)サルコペニア:
加齢に伴い通常以上に筋肉の萎縮が起きる現象で、加齢性筋肉減弱症と呼ばれる。

 

注5)体内時計:
私達の体の中には、およそ24時間の時計があり、体内時計は、時計遺伝子によって回る遺伝子に書かれた内在的な時計である。時計遺伝子の発見は、2017年にノーベル賞を受けた。生物時計が正確な時計でないため、脳では光によって調整されていることはよく知られている。最近の研究で、代謝に関わる内蔵や筋肉の時計は、食事のタイミングによって調整されていることがわかってきた。

 

注6)平成30年10月30日付名古屋大学プレスリリース【平成30年10月31日付アメリカ科学雑誌「PLoS ONE」 13(10): e0206669】

 

【論文情報】

雑誌名:British Journal of Nutrition
論文タイトル:Skipping breakfast regimen induces an increase in body weight and a decrease in muscle weight with a shifted circadian rhythm in peripheral tissues of mice
著者:Kohei Kiriyama1,2, Mizuki Yamamoto1, Daeun Kim1, Shumin Sun1, Hirotaka Yamamoto2 and Hiroaki Oda1
1 名古屋大学大学院生命農学研究科栄養生化学 
2 三基商事株式会社
DOI: https://doi.org/10.1017/S0007114522000356
URL: https://www.cambridge.org/core/journals/british-journal-of-nutrition/article/skipping-breakfast-regimen-induces-an-increase-in-body-weight-and-a-decrease-in-muscle-weight-with-a-shifted-circadian-rhythm-in-peripheral-tissues-of-mice/276F52EF0199AB711EC8770CD5BB5B6A

 

【研究代表者】

生命農学研究科 小田 裕昭 准教授
https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~nutr/oda/oda.html