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工学

2022.03.24

赤錆の光触媒作用で水素と過酸化水素を同時に製造 ―太陽光水素の利用拡大に期待―

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学未来材料・システム研究所の武藤 俊介 教授は、神戸大学分子フォトサイエンス研究センターの立川 貴士 准教授、同大学院科学技術イノベーション研究科・システム情報学研究科の天能 精一郎 教授、土持 崇嗣 准教授らの共同研究チームとの研究で、赤錆(ヘマタイト)注1)の光触媒注2)作用によって、太陽光と水から水素ガスと有用化成品である過酸化水素注3)を同時製造することに成功しました。
 

脱炭素社会の実現に向け、太陽光エネルギーを利用したCO2フリー水素の製造が注目されています。光触媒作用による太陽光水分解によって、水素とともに、健康や食料生産に資する有用な化成品を同時に製造できれば、より高付加価値な太陽光水素利活用システムの開発につながります。
今回、立川准教授らは、安全・安価・安定で、可視光を幅広く吸収できるヘマタイトのメソ結晶注4)に異種金属イオンをドーピング注5)し、電極化することで、水素とともに、消毒・漂白・土壌改質等で用いられる過酸化水素を製造することを見出しました。
今後は実用化を目指し、開発した光触媒電極をさらに高効率化するとともに、社会実装への取り掛かりとして、セルを構成し小型モジュール化を図っていきます。更に本メソ結晶技術を様々な材料や反応系に展開していく予定です。
本研究は、高輝度光科学研究センターの伊奈稔哲研究員、尾原幸治主幹研究員、山田大貴研究員との共同研究であり、この成果は令和4年3月23日(日本時間19時)に英国Nature Publishing GroupのNature Communicationsのオンライン速報版で公開されました。

 

【ポイント】

* 従来、過酸化水素生成に適していなかったヘマタイトに、異種金属イオン(スズ、チタン)をドーピングし、焼成することで、高活性な複合酸化物助触媒注6)を形成
* 酸素に代わって、消毒・漂白・土壌改質等、多用途で使用される過酸化水素をオンサイトで製造することで、太陽光水素のコスト低下や利用拡大に貢献

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)ヘマタイト(α-Fe2O3):酸化鉄のひとつ。ヘマタイトは安全・安価・安定(pH > 3)であるとともに、広域の可視光(約600ナノメートル以下)を吸収できる。
注2)光触媒:光を照射することにより触媒作用を示す物質。光触媒を導電性ガラス(フッ素ドープ酸化スズを成膜したガラス基板)上に塗布し、電極化したものを光触媒電極といい、光電極とも呼ばれる。本研究では、水を酸化分解し、過酸化水素を生成する反応に光触媒を用いている。
注3)過酸化水素:過酸化水素(H2O2)は消毒剤や洗剤、化粧品、漂白剤、浄水等の用途で幅広く用いられている。主な製造法であるアントラキノン法は大規模な化学工場を必要とし、有機廃棄物やCO2を排出する。また、H2O2は安定性に欠けるため、輸送のコストと危険性が懸念される。一方、H2O2水溶液を安全、安価かつグリーンなプロセスで合成できる本手法はO2と比べ市場価値が高いH2O2を同時に製造することで、水素コストを下げることもできる。
注4)メソ結晶:ナノ粒子が規則正しく三次元的に配列した多孔性の構造体。数百ナノメートルからマイクロメートルのサイズで、ナノ粒子間の空隙に由来する2~50ナノメートルの細孔を有する。
注5)ドーピング:結晶の物性を変化させるために少量の不純物を添加すること。ドーパントが結晶内部を拡散し、表面で析出する現象をドーパント偏析という。
注6)助触媒:光触媒と組み合わせることで触媒反応を促進する物質。本研究では、スズとチタンの複合酸化物が過酸化水素生成を促進する助触媒として機能している。

 

【論文情報】

・タイトル
“Binary dopant segregation enables hematite-based heterostructures for highly efficient solar H2O2 synthesis”(二成分ドーパント偏析による高効率太陽光H2O2合成のためのヘマタイトヘテロ構造)
DOI: 10.1038/s41467-022-28944-y
URL: https://www.nature.com/articles/s41467-022-28944-y

 

・著者
Zhujun Zhang, Takashi Tsuchimochi, Toshiaki Ina, Yoshitaka Kumabe, Shunsuke Muto, Koji Ohara, Hiroki Yamada, Seiichiro L. Ten-no, Takashi Tachikawa

 

・掲載誌
Nature Communications

 

【研究代表者】

http://www.nanoscopy.imass.nagoya-u.ac.jp/index.html