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数物系科学

2022.03.30

トポロジカル材料を力で操る ~分子の形とねじれを制御する、独自の分子モデルで解明~

磁性体や液晶などの物質は、内部の分子がらせん状の構造やスキルミオン(注1)と呼ばれる渦巻き状の構造を形成する場合があります。これらの構造は、その鏡像と重ね合わせることができない「キラリティ」という性質をもちます。これらキラリティを示す複数の構造を総称してトポロジカル相と呼び、トポロジカル相を電場や磁場で制御することにより、磁気メモリなどへ応用することが注目されています。一方、これらのトポロジカル相をもつ物質の多くは、結晶であるため弾性をもち、トポロジカル相を力学的に制御する可能性も注目されています。しかし、これまでの研究では、トポロジカル相への相転移における、物体の弾性場(注2)の役割は明らかにされてきませんでした。
東京大学 生産技術研究所の高江 恭平 特任講師、名古屋大学 大学院理学研究科の川﨑 猛史 講師の研究グループは、トポロジカル相を分子形状およびキラリティに由来する分子間のねじれにより制御可能な分子モデルを提案し、コンピュータシミュレーションにより、相転移における弾性場の発現、および応答の物理的な解明を目指しました。隣り合った分子間に働くねじれの強さを制御することで、ねじれが弱い時は分子の向きが揃った均一相、ねじれを強くすると分子の向きがねじれたらせん相、さらにねじれを強くすると分子が渦状に並んだハーフスキルミオン(注3)相へと、トポロジカル相転移を制御することに成功しました。この相転移は、分子配向の変化を伴うものであるため、相転移により物体が変形し、弾性場、すなわち力が発生すること、またその結果として、外から力を与えることで、これらの相を制御できることを明らかにしました。この結果は、電気・磁気のみならず、力学的にも高機能なトポロジカル材料を設計するための基礎的な物理原理を提供するものであり、アクチュエータや圧電素子への応用など実用上のインパクトも大きいと期待されます。
本成果は2022年3月28日にProceedings of the National Academy of Science of the United States of America誌(PNAS、米国科学アカデミー紀要)で公開されました。

 

【ポイント】

◆らせん状や渦巻き状など鏡像と重ならない複数の構造を示す「トポロジカル材料」の相転移を制御するモデルを新たに提案した。
◆トポロジカル材料の相転移で力を生み出せること、力で相転移を制御できることを明らかにした。
◆電気・磁気のみならず、力学的にも機能を発揮するトポロジカル材料を設計する基礎的な物理原理を提供した。アクチュエータや圧電素子などへの応用が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

(注1)スキルミオン
分子の回転角が渦状に変化している構造の一種。スキルミオンの中心に位置する分子と外周に位置する分子は180度向きを変えているが、本研究では分子の頭尾を区別しないため、両者は同一である。その間の分子は少しずつ角度を変えて配列している。スカーミオンともいう。

 
(注2)弾性場
ある物体に対して、外部から、あるいは自然に力がかかっているとき、均一ではなく、空間的に不均一に分布している力および変形のこと。

 

(注3)ハーフスキルミオン
分子の回転角が渦状に変化している構造の一種。スキルミオンとは異なり、渦の外周に位置する分子が中心の分子と垂直になっており、分子の回転角がスキルミオンの半分であるためこのように呼ばれる。メロンともいう。

 

【論文情報】

雑誌名   :「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS、米国科学アカデミー紀要)」(3月28日)
論文タイトル:Emergent elastic fields induced by topological phase transitions: Impact of molecular chirality and steric anisotropy
著者    :Kyohei Takae and Takeshi Kawasaki
DOI番号  :10.1073/pnas.2118492119
URL    :https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2118492119

 

【本学における研究代表者】

大学院理学研究科 川﨑 猛史 講師