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生物学

2022.05.11

植物細胞が分裂する位置を決める新たな仕組みを発見

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学高等研究院のエレナ コズグノワ特任助教(YLCプログラム)と大学院理学研究科の五島 剛太 教授のグループは、ドイツの研究グループとの共同研究で、植物の細胞分裂面を決定する新たな仕組みを発見しました。
細胞分裂が対称に起こるか非対称に起こるかで、分裂後の細胞(2つの「娘細胞」)の運命が変わることがあります。そのため細胞には、分裂がどの部位で起こるかを規定する制御機構が発達しています。動物細胞において重要な機構のひとつは、細胞分裂装置・紡錘体注1)の配置です。紡錘体が細胞中央にあると分裂は中央付近で起き、分裂後に生じる娘細胞のサイズは同じになります。一方、紡錘体が中央から外れたところに配置されると、娘細胞のサイズは非対称となります。紡錘体は微小管注2)やアクチンフィラメント注3)と呼ばれる細胞骨格注4)の発生する力により細胞内を移動します。
一方、植物の細胞ではこれまで紡錘体が移動することは知られておらず、進化の過程で動物とは異なる仕組みが発達したと思われていました。紡錘体の形状が動物とは異なることから、力学的観点からも、むしろ移動しないことが自然と考えられました。ところが、本研究では、コケ植物において、微小管の動態制御因子TPX2に変異を持つ細胞をライブ観察している過程で、思いもかけず、紡錘体が大きく移動することを見出しました。その結果、変異体では本来分裂するべき場所での分裂が起こらず、娘細胞が異常に非対称になりその後の植物発生に甚大な影響が出ました。興味深いことに、この移動を駆動したのもアクチンフィラメントでした。つまり、紡錘体の形状は異なるにも関わらず、動物と同じ因子が移動に関わっていたことになります。
本研究成果は、2022年5月5日付イギリス科学誌「Nature communications」オンライン版に掲載されました。
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業の支援のもとで行われたものです。
 

【ポイント】

・ヒメツリガネゴケの細胞において、微小管結合因子TPX2が欠損すると、紡錘体の移動が観察された。
・紡錘体の移動により細胞分裂の対称性が崩れ、その後の植物発生に欠損が出た。
・細胞をアクチンフィラメントの阻害剤で処理すると、紡錘体の移動は抑えられた。
・植物の細胞分裂の位置を決める機構のひとつとして、これまで見つかっていなかった「紡錘体の移動」を見出した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)紡錘体:
細胞骨格を主成分とする、10マイクロメートルほどの大きさの構造体で、細胞分裂時に染色体を娘細胞へと分配する働きがある。

 
注2)微小管:
α-及びβ-チューブリンというタンパク質が重合してできた繊維(細胞骨格のひとつ)。

 

注3)アクチンフィラメント:
微小管とは異なる、アクチンと呼ばれるタンパク質が重合してできた繊維(細胞骨格のひとつ)。
 

注4)細胞骨格:
タンパク質の重合により形成される繊維状の構造。重合、脱重合を繰り返すことで動的な性質も示す。代表的なものにアクチンフィラメントと微小管がある。

 

【論文情報】

雑誌名:Nature communications
論文タイトル:Spindle motility skews division site determination during asymmetric cell division in Physcomitrella
著者:エレナ コズグノワ、吉田真理、ラルフ レスキ、五島 剛太
DOI:10.1038/s41467-022-30239-1
URL:https://www.nature.com/articles/s41467-022-30239-1

 

【研究代表者】

http://bunshi4.bio.nagoya-u.ac.jp/~tenure2/goshima.html