国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の辻村 啓太 特任講師(名古屋大学高等研究院 兼務)、赤羽 裕一 特別研究学生(旭川医科大学より出向)、大学院医学系研究科の夏目 淳 特任教授らの研究グループは、千葉大学大学院医学研究院の塩浜 直 助教、実験動物中央研究所の小牧 裕司 博士、ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院(アメリカ)のEmi Takahashi博士、旭川医科大学の高橋 悟 准教授、順天堂大学医学部の青木 茂樹 教授らとの国際共同研究により、重篤な発達障害を呈するレット症候群注1)モデルマウスの脳における構造異常を新たに特定しました。
世界的にも発達障害及び精神疾患は罹患率が高く、経済的・社会的負担が問題となっており、病態の解明や診断・治療法の開発が求められています。MECP2遺伝子注2)の変異はレット症候群を引き起こすだけでなく、知的能力障害や統合失調症など様々な発達障害・精神疾患の発症にも深く関与することから、レット症候群の病理や病態メカニズムを解明することは、幅広い発達障害・精神疾患の理解に繋がると期待されています。本研究では、MeCP2遺伝子を欠損したレット症候群モデルマウス脳を、最新の磁気共鳴イメージング(MRI)注3)の手法により詳細に解析し、複数の脳領域の体積減少や、左右差の異常を特定することに成功しました。このことは、レット症候群だけでなく広範な発達障害及び精神疾患の新しい診断法や治療法の開発に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2022年5月10日付国際学術雑誌「Frontiers in Neuroscience」に掲載されました。
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業「microRNA病態に基づいたレット症候群の有効治療薬開発」、「MECP2遺伝子変異に起因する脳発達障害の分子シグナル病態の解明と新規診断・治療法の基盤開発」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金、レット症候群支援機構等の支援のもとで行われたものです。
・最新のMRI技術でこれまで明らかになっていなかった脳構造異常を特定。
・詳細な解析により、これまで特定されていなかった複数の脳領域の体積減少を見出した。
・これまで報告されていなかった脳の左右差異常を新規に明らかにし、新たな病態を提唱。
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注1)レット症候群:
重度の知的能力障害(ID)や、自閉スペクトラム症(ASD)、てんかん、失調性歩行等の運動機能障害、特有の常同運動(手もみ動作)を主徴とする進行性の神経発達症である(指定難病156)。男性は胎生致死あるいは生後すぐに死亡するため、結果的に患者は女性のみとなる。レット症候群の80-90%にMECP2遺伝子の変異がみられる。
注2)MECP2遺伝子:
X染色体上に存在し、MeCP2タンパク質をコードする。MeCP2はメチル化された遺伝子のプロモーター領域に結合し、標的遺伝子の発現を抑制する転写抑制因子として同定された。MeCP2遺伝子の変異は、レット症候群だけでなく、ASDやID、双極性障害、認知障害、統合失調症患者にも認められる。MECP2遺伝子の重複は、重度の発達障害であるMECP2重複症候群を引き起こす。
注3)磁気共鳴イメージング(Magnetic Resonance Imaging: MRI):
体を傷つけることなく(非侵襲的に)体内を可視化できるため、臨床現場でも広く用いられている画像診断技術。磁場の力を利用して、体内の細胞や組織に存在する水分量を画像化することができる。
雑誌名:Frontiers in Neuroscience
論文タイトル:Comprehensive Volumetric Analysis of Mecp2-null Mouse Model for Rett Syndrome by T2-Weighted 3D Magnetic Resonance Imaging
著者:Yuichi Akaba#(#筆頭著者), Tadashi Shiohama#, Yuji Komaki#, Fumiko Seki, Alpen Ortug, Daisuke Sawada, Wataru Uchida, Koji Kamagata, Keigo Shimoji, Shigeki Aoki, Satoru Takahashi, Takeshi Suzuki, Jun Natsume, Emi Takahashi, Keita Tsujimura*(*責任著者)
※下線: 本学関係者
DOI : 10.3389/fnins.2022.885335
URL : https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnins.2022.885335/full
<研究者一覧>
国立大学法人東海国立大学機構
名古屋大学大学院理学研究科附属ニューロサイエンス研究センター
脳機能発達制御学グループ
辻村啓太 (名古屋大学高等研究院 発達障害革新研究開発ユニット 兼任)
赤羽裕一 (旭川医科大学より出向)
国立大学法人東海国立大学機構
名古屋大学大学院医学系研究科 障害児(者)医療学寄付講座
夏目淳、鈴木健史
国立大学法人千葉大学大学院医学研究院 小児病態学
塩浜直、澤田大輔
公益財団法人実験動物中央研究所 ライブイメージングセンター
小牧裕司、関布美子
国立大学法人旭川医科大学医学部 小児科学講座
高橋悟
Harvard Medical School Massachusetts General Hospital Radiology
(ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院 放射線学)
Emi Takahashi,Alpen Ortug
学校法人順天堂大学医学部 放射線医学教室
青木茂樹、下地啓吾、鎌形康司、内田航