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数物系科学

2022.06.02

10兆分の1秒以下のコマ撮りが可能な電子線分子動画撮影装置の開発に成功 -光が駆動する20兆分の1秒の結晶変化を観測-

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 未来材料・システム研究所の桑原真人准教授は、東京工業大学 理学院 化学系の田久保耕特任助教、Samiran Banu(サミラン・バヌー)大学院生(博士後期課程3年)、腰原伸也教授らは、筑波大学 数理物質系の羽田真毅准教授、矢嶋渉大学院生(博士前期課程2年)らと共同で、光励起で起きる10兆分の1秒(100フェムト秒)以下の構造変化を観測するテーブルトップサイズ電子線回折(用語1)装置を世界で初めて開発した。
本装置は大型の加速器を用いず、レーザーと小型加速器の精密制御による新たなパルス電子線発生技術を利用することで、約50フェムト秒(1フェムト秒は1,000兆分の1秒)以下という、結晶材料中の原子や分子が振動する速さでの変化を高精度でコマ撮りできる。実際にこの装置を用いて、典型的半導体である単結晶Siに光があたるとSi原子がどのように動くのかという、光デバイス開発の最も基本的な情報を得ることに初めて成功した。本装置では、従来よりも加速電圧を抑えた(10万ボルト)電子線を用いているため、試料損傷もほとんどなく、無機物質から有機物質まで広がる光エネルギー変換材料や光メモリー、トポロジカル材料など幅広い材料開拓への貢献が期待される。
本研究成果は5月31日(現地時間)に、「Review of Scientific Instruments」にオンライン掲載された。

 

【ポイント】

○新たなパルス電子線発生技術により、光励起で起きる10兆分の1秒(100フェムト秒)以下の変化を観測するテーブルトップサイズ装置を世界で初めて開発
○典型的半導体材料である単結晶Siの20兆分の1秒(50フェムト秒)程度の原子の動きを初めて観測することに成功
○小型で試料損傷がほとんどないため、光メモリー、光エネルギー変換材料など幅広い材料開拓への貢献を期待

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

(1) 電子線回折:真空中で高電圧により加速した電子ビーム(電子線)を物質に照射すると、透過・反射した電子線が干渉によって様々なパターン(回折図形)を生じることを用いて、物質の結晶構造の対称性の情報を取得する手法。超短パルスレーザーを金の電極等に照射すれば、光電効果により数千億分の1秒程度のパルス幅の電子ビームが容易に作成できることは、多くの先行研究により確認されていた。

 

【論文情報】

掲載誌:Review of Scientific Instruments
論文タイトル:Generation of sub-100 fs electron pulses for time-resolved electron diffraction using a direct synchronization method
著者:Kou Takubo, Samiran Banu, Sichen Jin, Misaki Kaneko, Wataru Yajima, Makoto Kuwahara, Yasuhiko Hayashi, Tadahiko Ishikawa, Yoichi Okimoto, Masaki Hada, and Shinya Koshihara
DOI:10.1063/5.0086008
URL:https://aip.scitation.org/doi/10.1063/5.0086008

 

【研究代表者】

https://sirius.imass.nagoya-u.ac.jp