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生物学

2022.06.06

胎生魚類の赤ちゃんは、どのようにお母さんの栄養を吸収するのか ~胎盤の飲食作用で取り込んで分解することを解明~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の飯田 敦夫 助教、本道 栄一 教授らの研究グループは、大阪市立大学および東北大学との共同研究で、カダヤシ目グーデア科に属するハイランドカープ(学名:Xenotoca eiseni)という魚をモデルに使って、非哺乳類の胎生動物がどのようにお母さんから子供へと栄養分を受け渡しているかを調査し、胎生魚類の胎盤注1)が栄養を吸収する仕組みを実験的に示しました。
ハイランドカープの胎盤(栄養リボン)の細胞は、飲食作用(エンドサイトーシス)注2)と呼ばれる仕組みにより、栄養分となるタンパク質や脂質を取り込むことが明らかになりました。また細胞内では、取り込まれたタンパク質や脂質を分解する機構が働いていることも分かってきました
本研究から、一部の魚類がどのような仕組みで胎生注3)を獲得し、生存競争に有利な形質を形作ったのかを紐解くことができます
本研究成果は、2022年6月3日付オランダの出版社エルゼビア社学術誌「Biochimica et Biophysica Acta - Molecular and Cell Biology of Lipids」に掲載されました。
本研究は、一般財団法人 中辻創智社および公益財団法人 大幸財団の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・母親由来の栄養分であるタンパク質ビテロジェニン注4)は、クラスリン注5)に依存したエンドサイトーシス機構で子供の胎盤に吸収される。
・胎盤の細胞内ではタンパク質および脂質の分解活性を持つ遺伝子が働いている。
・エンドサイトーシス以外の経路(膜輸送)での資質の取り込みの存在を実証するには至らなかった。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)胎盤:
 「母体と胎児を連絡する器官」と定義されている。哺乳類の場合は、母体由来の脱落膜と胎児由来の絨毛膜で構成される。消化管に由来すると考えられているグーデア科の栄養リボンも、機能的な定義付けによれば“胎盤”に位置付けられる。

 

注2)飲食作用(エンドサイトーシス):
細胞が物質を内部に取り込む様式のひとつ。細胞膜上の受容体に標的分子が結合し、周囲の細胞膜が換入した小胞が形成され、細胞内に取り込まれる。小胞内には低pH環境で分解酵素などに富む。

 

注3)胎生:
 体内受精し、受精卵あるいは胚を母体内で成長させた後で出産する繁殖様式。定義は様々であり、体内受精して胚発生は進んでいる受精卵を生むグループ(ニワトリなど)も広義の胎生とする場合もある。

 
注4)ビテロジェニン:
 卵の卵黄部に集積する栄養成分を構成するタンパク質のひとつ。卵黄を形成しない哺乳類では、アミノ酸配列をコードする遺伝子自体が欠失している。

 

注5)クラスリン:
 エンドサイトーシスの際に出現する細胞内小胞の外側を形作る、骨格となるタンパク質。エンドサイトーシスが関与する様々な生理現象に貢献することが報告されている。近年ではクラスリン以外にも、小胞の骨格となるタンパク質が報告されている。

 

【論文情報】

雑誌名:Biochimica et Biophysica Acta - Molecular and Cell Biology of Lipids
論文タイトル:Endocytosis-mediated vitellogenin absorption and lipid metabolism in the hindgut-derived placenta of the viviparous teleost Xenotoca eiseni
著者:Atsuo Iida(生命農学研究科・助教), Jumpei Nomura(生命農学研究科・博士前期課程), Junki Yoshida(生命農学研究科・博士後期課程), Takayuki Suzuki(研究当時 生命農学研究科・准教授、現 大阪市立大学・教授), Hayato Yokoi, Eiichi Hondo(生命農学研究科・教授) 
DOI:10.1016/j.bbalip.2022.159183
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1388198122000737?via%3Dihub  

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 飯田 敦夫 助教
https://sites.google.com/view/animal-morphology