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化学

2022.06.06

不斉リビングカチオン重合の開発 ~光学活性高分子の高度な制御と構造の解明~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の内山 峰人 講師、上垣外 正己 教授、東京工業大学物質理工学院の佐藤 浩太郎 教授らは、不斉リビングカチオン重合注1)を初めて開発し、ノーベル化学賞受賞者のGiulio Natta 注2)らによって報告された光学活性合成高分子注3)の分子量制御を達成すると共に、総合的な解析によりポリマー(高分子)の立体構造を解明しました。
光学活性を示すポリマーは、タンパク質やセルロースなどの天然高分子に見られるように、立体化学的に高度に制御された構造により優れた機能や性能を示し、われわれの活動や生活に重要な役割を果たしています。光学活性ポリマーを化学的に合成する方法は、より高機能・高性能な高分子材料の開発に向け、学術的にも工業的にも重要です。
今回の研究は、新しい精密重合反応の開発のみならず、新しい機能性高分子材料の開発につながると期待されます。
本研究成果は、2022年6月4日付アメリカ化学会誌「J. Am. Chem. Soc.」オンライン誌に掲載されました。
本研究は、日本学術振興会科学技術研究費助成事業と旭硝子財団の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・ 重合触媒として作用するβ-アミノ酸注4)に嵩高い置換基を導入することで、従来より高い旋光性注5)を示す光学活性ポリマーが得られた。
・ 可逆的に働く連鎖移動剤注6)を添加することで、不斉リビングカチオン重合を初めて開発し、光学活性ポリマーの分子量制御を達成した。
・ ポリマーとモデル反応の総合的な解析から、光学活性ポリベンゾフランの立体構造をほぼ解明し、この重合における高い位置選択性と立体選択性を明らかとした。
・ モノマーは植物由来化合物からも合成可能で、ポリマーは熱分解によりケミカルリサイクル可能なことが報告されていることから、環境適合型の高耐熱性・透明性・光学活性プラスチックとして新たな展開が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)不斉リビングカチオン重合:
カチオン重合とは、正電荷の生長種で進行する重合反応。リビング重合は、生長種が失活しないで進行する重合反応で、ポリマーの分子量制御を可能とする。不斉重合は、重合反応によってポリマー鎖中に新たに生成する不斉の要因、例えば、真の不斉炭素に由来する不斉中心を過剰に含むポリマーを生成する重合反応。不斉リビングカチオン重合はこれら3つの要素を兼ね備えた重合反応である。

 
注2)Giulio Natta:
イタリアの化学者で、配位重合により立体規則性ポリプロピレンの合成などにおいて業績をあげ、1963年にKarl Zieglerとノーベル化学賞を受賞した。

 

注3)光学活性合成高分子:
光学活性すなわち旋光性を示す合成高分子。

 

注4)β-アミノ酸:
アミノ酸は同一分子中にカルボキシル基とアミノ基を有する化合物であり、β-アミノ酸はこれらのうちアミノ基がついている炭素とカルボキシル基の炭素の間に、もう一つ炭素があるアミノ酸。

 

注5)旋光性:
ある種の物質に直線偏光を通過させたとき、物質がその偏光面を回転させる性質。

 

注6)連鎖移動剤:
重合反応において、ポリマー鎖の生長種が移動する化合物であり、移動するとそこからポリマー鎖が生長する。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of the American Chemical Society
論文タイトル:Asymmetric Cationic Polymerization of Benzofuran through Reversible Chain-Transfer Mechanism: Optically Active Polybenzofuran with Controlled Molecular Weights
(可逆的連鎖移動機構によるベンゾフランの不斉カチオン重合:分子量の制御された光学活性ポリベンゾフラン)
著者:M. Uchiyama(講師)、D. Watanabe(大学院博士前期課程学生(研究当時))、Y. Tanaka(大学院博士前期課程学生(研究当時))、K. Satoh(東京工業大学教授)、M. Kamigaito(教授)
DOI: 10.1021/jacs.2c02569
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.2c02569

 

【研究代表者】

http://chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/polymer2/index.html