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数物系科学

2022.06.10

静かなオーロラが地球大気を深くまで電離させる ―最先端の観測とシミュレーションで見えた宇宙と大気のつながり―

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学宇宙地球環境研究所の三好 由純 教授、小路 真史 特任助教、堀 智昭 特任准教授は、総合研究大学院大学複合科学研究科の村瀬 清華 大学院生らの研究グループとともに、2018年7月24-25日、南極昭和基地の大型大気レーダー「PANSYレーダー注1」の観測によって、オーロラ爆発の約十分前から、68kmという低高度で大気電離が起きていたことを発見しました。同時に、昭和基地から磁力線を辿った先の宇宙空間に位置していた、「あらせ」衛星注2によって高エネルギー電子の降り込みが観測されており、その観測データを用いて、電子が大気に入射した際の大気電離を放射線挙動解析コード「PHITS注3」で見積もりました。その結果は、「PANSYレーダー」による電離高度の観測だけでなく、昭和基地のリオメータ注4による電離強度の観測データとも整合的で、オーロラ爆発前に数100keVを超える電子が降り込んできたことを定量的に確かめられたといえます。
加えて、オーロラ爆発につながる磁気圏全体の変動を再現できるグローバルシミュレーション「REPPU」を用いて、観測では捉えきれなかった電子降下領域の広がりを推定した結果、東西方向に4000 km、経度にして120度程度まで広がりうることが分かりました。観測から推定される電離の継続時間も考慮すると、オーロラ爆発前の高エネルギー電子降下による大気電離の影響の大きさは、活発なオーロラ活動時の数十%程度になりうることを示唆しています。
このように、最先端のシミュレーションや南極の大型施設、人工衛星による最先端の観測を組み合わせて研究した結果、オーロラ爆発前にも、無視できない大気電離のインパクトがあることが明らかとなりました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1 PANSYレーダー
昭和基地(南緯69.00?, 東経39.58?)に建設された、南極最大の大気レーダー。1045本のアンテナで構成される。上空に向けて強力な電波を発射し、大気中で散乱され戻ってきたわずかな電波(反射エコー)を検出することで、上空500kmまでの大気の風速や電子密度等を観測する。
注2 ジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG衛星)
2016年12月に打ち上げられた日本の科学衛星。ヴァン・アレン帯(宇宙空間の中で、高エネルギーの電子が地球の磁場に捉えられているドーナツ状の領域)の中心部で直接、荷電粒子や電場・磁場の変動を観測し、ヴァン・アレン帯電子の変動とジオスペースのダイナミクスの解明を目的としている(名古屋大学宇宙地球環境研究所に設置されているERGサイエンスセンター (https://ergsc.isee.nagoya-u.ac.jp/))。
注3 PHITS
あらゆる物質中での放射線の振る舞いを第一原理的に計算するシミュレーションコード。日本原子力研究開発機構が中心となって開発を進めており、放射線施設の設計、医学物理計算、宇宙線科学などの分野で国内外6,000名以上のユーザーが利用中。
注4 リオメータ
銀河から飛んでくる雑音電波を観測し、その強度の変化からオーロラ等に伴う高エネルギー電子の降り込みを調べる装置。

 

【論文情報】

* 掲載誌: Journal of Space Weather and Space Climate
* 論文タイトル: Mesospheric ionization during substorm growth phase
* Doi: doi.org/10.1051/swsc/2022012
* URL: https://www.swsc-journal.org/articles/swsc/full_html/2022/01/swsc210073/swsc210073.html

 

著者
* 村瀬 清華  総合研究大学院大学複合科学研究科極域科学専攻
* 片岡 龍峰  総合研究大学院大学複合科学研究科極域科学専攻 / 国立極地研究所
* 西山 尚典  総合研究大学院大学複合科学研究科極域科学専攻 / 国立極地研究所
* 西村 耕司  京都大学生存圏研究所
* 橋本 大志  総合研究大学院大学複合科学研究科極域科学専攻 / 国立極地研究所
* 田中 良昌  総合研究大学院大学複合科学研究科極域科学専攻 / 国立極地研究所 / 極域環境データサイエンスセンター
* 門倉 昭   総合研究大学院大学複合科学研究科極域科学専攻 / 国立極地研究所 / 極域環境データサイエンスセンター
* 冨川 喜弘  総合研究大学院大学複合科学研究科極域科学専攻 / 国立極地研究所
* 堤 雅基   総合研究大学院大学複合科学研究科極域科学専攻 / 国立極地研究所
* 小川 泰信  総合研究大学院大学複合科学研究科極域科学専攻 / 国立極地研究所
* Uchida Herbert Akihito 宇宙科学研究所
* 佐藤 薫   東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻
* 笠原 慧   東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻
* 三谷 烈史  宇宙科学研究所
* 横田 勝一郎 大阪大学大学院理学研究科
* 堀 智昭   名古屋大学宇宙地球環境研究所
* 桂華 邦裕  東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻
* 高島 健   宇宙科学研究所
* 笠原 禎也  金沢大学大学院自然科学研究科
* 松田 昇也  宇宙科学研究所
* 小路 真史  名古屋大学宇宙地球環境研究所
* 松岡 彩子  京都大学地磁気世界資料解析センター
* 篠原 育   宇宙科学研究所
* 三好 由純  名古屋大学宇宙地球環境研究所
* 佐藤 達彦  日本原子力研究開発機構
* 海老原 祐輔 京都大学生存圏研究所
* 田中 高史  九州大学国際宇宙天気科学・教育センター

 

【研究代表者】

https://www.isee.nagoya-u.ac.jp/~miyoshi/