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農学

2022.06.21

ササの一斉結実による森林性野ネズミの個体群への影響を解明 ~篶竹の 花実生り年 遥か永遠 久しき恵み 身にし野鼠かな~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の鈴木 華実 博士後期課程学生、梶村 恒 准教授らの研究グループは、ササの一斉結実が森林性野ネズミの個体群に与えた影響を解明しました。
タケ・ササ類は、数十年から百数十年に一度開花・結実し、その後枯死する「一回繁殖性注1)」の植物です。同時に広範囲で発生する場合が多く、「一斉開花」「一斉結実」します。この現象によって大量の種子が突如として供給され、種子を主な餌とする動物に重要な繁殖源をもたらす可能性があります。
2010年代に入り、ササの一種で120年周期とされる、スズタケの開花が日本各地の林床で観察されるようになりました。研究グループが2011年から野ネズミの生態を調べ始めたその地で、2017年、スズタケが一斉開花・結実しました。そこで、スズタケの結実前後のデータを比較したところ、生息確認していた3種の野ネズミのうち、アカネズミとヒメネズミが大発生、2年経過しても増加した個体数は維持されました。このことから、樹木よりも圧倒的に周期が長く、供給量が膨大であるササの種子の場合、野ネズミ個体群がどのように反応するかが初めて明示されました。さらに、森林生態系における突発的な環境変化、そこに暮らす生物の相互作用の実像に迫る、重要な手掛かりになることが期待されます。
本研究成果は、2022年6月15日付国際学術誌「Ecological Processes」(出版社:SpringerOpen)にオンライン掲載されました。
本研究は、2021年度から始まった「名古屋大学融合フロンティアフェローシップ制度」の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・タケ・ササ類は、数十年から百数十年に一度有性繁殖(開花・結実)し、その後枯死する「一回繁殖性」の植物である。有性繁殖が広範囲に及ぶ場合、「一斉開花」「一斉結実」という。
大規模な有性繁殖によって大量の種子が供給され、生息している動物に豊富な餌(繁殖源)を提供する可能性がある。
・2010年代に入り、ササの一種で120年周期とされる、スズタケの開花が日本各地の林床で観察されるようになった。
・研究グループは、名古屋大学稲武フィールド(愛知県北東部)の森林内において2011年より野ネズミの生態調査を実施しており、その調査地で2017年にスズタケが開花・結実した。
・結実の前および当年のデータと、その後のデータとの比較から、ササによる大量の種子供給が野ネズミの個体群動態注2)にもたらした影響を定量的に評価した。
・調査地に生息する3種の野ネズミのうち、(古文書の記載から推察される種類とは異なる)アカネズミとヒメネズミにおいて、一斉結実後の大発生が確認された。
・一斉結実から2年経過しても、増加した両種の個体数は維持されることが見出された。
・メス幼獣の占める割合が高いという結果から、一斉結実によって繁殖メスのコンデションが良好になったことが示唆された。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)一回繁殖性:
一生に一度だけ有性繁殖 (植物の場合は開花・結実) を行い、その後は死亡する繁殖様式。

 

注2)個体群動態:
ある空間内に生息する同種個体の総体を個体群と呼び、生物の存在様式を規定する基本単位となる。その大きさ (個体数や生物量、密度) の時間的・空間的変化が個体群動態であり、種の存続や絶滅、逆に大発生を検出あるいは予測する基盤となる。

 

【論文情報】

雑誌名:Ecological Processes
論文タイトル:How does the 120-year cycle mast seeding of dwarf bamboo affect the rodent population?
著者:Hanami Suzuki (名古屋大学大学院生命農学研究科博士後期課程学生/2021年度『名古屋大学融合フロンティアフェロー』), Haruka Kashiwagi (元:同研究科博士後期課程学生), Hisashi Kajimura (名古屋大学大学院生命農学研究科准教授)
*表題の和歌で全員の名前が“掛詞”
DOI:10.1186/s13717-022-00385-x

URL: https://ecologicalprocesses.springeropen.com/articles/10.1186/s13717-022-00385-x

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 梶村 恒 准教授
https://forest-protection-nu.jimdofree.com/