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医歯薬学

2022.07.12

難治性肺疾患である肺線維症に対する新規抗線維化分子 BMP3b を発見!

名古屋大学大学院医学系研究科呼吸器内科学(講座長・石井 誠教授)の橋本 直純(はしもとなおずみ)准教授、同大医学部附属病院呼吸器内科の阪本 考司(さかもとこうじ)助教、鈴木 淳(すずきあつし)助教らの研究グループは、同大大学院医学研究科腫瘍病理学の榎本 篤教授(えのもとあつし)教授らとの共同研究で、肺の線維芽細胞(せんいがさいぼう)に特異的に発現する BMP3bという分子が難治性の肺病態である肺線維症において抗線維化作用を示すことをマウスモデル等によって明らかにしました。

 

肺線維症は慢性進行性の難治性肺疾患であり、現在承認されている抗線維化薬を使用しても尚予後不良であることから、早急な病態解明や治療開発が望まれています。橋本准教授らの研究グループは先行研究において、meflin *1 という分子が肺線維症の線維芽細胞に特異的に発現し、マウス肺線維症モデルでは抗線維化作用を示すことを報告しました。一方、meflin がどのように抗線維化作用を示すかは不明な点が多く、臨床応用のため、更なる研究や解明が求められていました。

 

今回、同研究グループは cDNA マイクロアレイ*2 を用いた肺線維芽細胞における遺伝子発現の網羅的解析、及び単一細胞 RNA シークエンス(scRNA-seq) *3 データベースを用いた解析を通じて、BMP3b が meflin 同様、線維芽細胞に特異的に発現しており、さらに meflin に強く制御される分子であることを発見しました。さらにマウスの肺線維症モデルやヒト肺線維芽細胞を用いた実験によりBMP3b が抗線維化作用を示し、meflin が抑制されていてもその機能を発揮することを明らかにしました。これにより、BMP3b は meflin の抗線維化作用の少なくとも一部を担っており、肺線維症の治療開発における有望な分子であることが分かりました。今後創薬に向けての更なる研究が期待されています。

 

本研究成果は、米国胸部学会誌「American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology」(2022 年 6 月 21 日付)に掲載されました。

 

【ポイント】

○肺線維症は慢性進行性の予後不良な肺疾患であり、新規治療薬の開発が求められています。
○本研究では、肺線維芽細胞に特異的に発現している BMP3b が meflin によって制御され、肺線維症の病態において抗線維化作用を示すことを初めて報告しました。
○今後肺線維症に対する新規治療薬候補として、BMP3b に関する研究が進むことが期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1 Meflin(メフリン)
グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型の膜タンパクであり、腫瘍病理学の榎本教授らによって未分化な間葉系幹細胞及び線維芽細胞の特異的マーカーとして報告された。
*2 cDNA マイクロアレイ
一度に短時間で数十万種類の遺伝子発現を網羅的に解析できる手法
*3 単一細胞 RNA シークエンス(scRNA-seq)
個々の細胞が保持している mRNA を 1 細胞毎に質的・量的評価できる新規技術

 

【論文情報】

掲雑誌名:American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology
論文タイトル:BMP3b is a Novel Anti-Fibrotic Molecule Regulated by Meflin in Lung Fibroblasts
著者:Atsushi Suzuki 1* , Koji Sakamoto 1* , Yoshio Nakahara 1, Atsushi Enomoto2, Jun Hino 3, Akira Ando 1, Masahide Inoue1, Yukihiro Shiraki2, Norihito Omote 1, Masahiro Kusaka 1, Jun Fukihara1, and Naozumi Hashimoto 1
所属名:
1Department of Respiratory Medicine, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Aichi, Japan; 2Department of Pathology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Aichi, Japan; 3Department of Biochemistry, National Cerebral and Cardiovascular Center Research Institute, Suita, Osaka, Japan
DOI: 10.1165/rcmb.2021-0484OC

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Ame_220712en.pdf

 

【研究代表者】

医学部附属病院 阪本 考司 病院助教大学院医学系研究科 橋本 直純 准教授
http://www.med-nagoya-respmed.jp/