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生物学

2022.07.12

貧栄養環境で植物のバイオマスを増加させる新規技術開発に成功 ~貧栄養環境での栽培に適した作物の開発に期待~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の杉浦大輔講師は、島根大学大学院自然科学研究科農生命科学専攻生命科学コースの大学院生・門田宏太、島根大学総合科学研究支援センターの蜂谷卓士助教、中川強教授の研究グループ、東京大学大学院農学生命科学研究科の神谷岳洋准教授、中部大学の鈴木孝征教授との共同研究により、モデル植物であるシロイヌナズナ注1)の細胞膜プロトンポンプ注2)を根特異的に活性化させることによって、貧栄養環境注3)での根の栄養塩吸収能力を高める技術を開発し、植物のバイオマス注4)を増加させることに成功しました。
本研究成果は、国際学術誌「Biochemical and Biophysical Research Communications」に6月30日にオンライン公開されました。
本研究は、科学研究費補助金・基盤研究(C)[JP20K05771]、科学研究費補助金・基盤研究(B)[JP21H02087]、市村清新技術財団・植物研究助成の支援のもとで行われました。

 

【ポイント】

・細胞膜プロトンポンプを根特異的に活性化させた植物は、貧栄養環境において、窒素、リン、カリウムなどの11種類の栄養元素のとりこみ量が増加することを明らかにした。
・細胞膜プロトンポンプを根特異的に活性化させた植物は、貧栄養環境において、地上部と根のバイオマスが増加することを明らかにした。
・近年、価格が高騰し、環境汚染の原因にもなっている化学肥料の使用量の削減が期待される。
・今後はゲノム編集技術注5)を用いることで、低投入持続型農業注6)に適した作物の開発への応用が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)シロイヌナズナ:植物研究のモデル植物としてよく利用されている。利点として、全ゲノムが解読されている、世代時間が短い、実験室で扱いやすい、などが挙げられる。
注2)細胞膜プロトンポンプ:細胞膜を介した水素イオンの濃度勾配をつくり出すために、細胞の内側から外側に水素イオンを放出する一次輸送体のこと。植物において気孔の開口や栄養塩のとりこみなどに寄与する。
注3)貧栄養環境:窒素、リン、カリウムなどの栄養塩の濃度が低く、植物の栽培にあまり適さない環境のこと。
注4)バイオマス:生物資源(植物体)の量のこと。
注5)ゲノム編集技術:特定の遺伝子を狙って変化させることができる技術のこと。ゲノム編集作物として、高GABAトマトが有名である。
注6)低投入持続型農業:化学肥料の投与を最小限に抑えて、自然生態系のエネルギーを利用することで、環境への負荷をかけずに行う農業のこと。

 

【論文情報】

論文タイトル

Root-specific activation of plasma membrane H+-ATPase 1 enhances plant growth and shoot accumulation of nutrient elements under nutrient-poor conditions in Arabidopsis thaliana

著者

門田宏太*1、神谷岳洋*2、杉浦大輔*3、鈴木孝征*4、中川強*1、蜂谷卓士*1
*1島根大学 *2東京大学 *3名古屋大学 *4中部大学

掲載誌

Biochemical and Biophysical Research Communications


【研究代表者】

https://sakumotsu.wixsite.com/nu-crop-science