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化学

2022.07.01

全フッ素化カーボンナノリングを初合成 ~貴金属触媒を使わず市販の化合物からワンポットで合成可能~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM※1)・同大学大学院理学研究科の伊丹 健一郎 教授、周戸 大季 博士後期課程学生は、大学共同利用機関法人自然科学研究機構 分子科学研究所の瀬川 泰知 准教授らとの共同研究により、全フッ素化カーボンナノリング『ペルフルオロシクロパラフェニレン』の合成に初めて成功しました。
シクロパラフェニレン(CPP)は、次世代炭素材料のひとつであるカーボンナノチューブの最もシンプルで短い部分構造として知られています。CPPは有機電子材料として期待されているだけでなく、カーボンナノチューブの精密合成の素材としても注目されており、CPPの水素原子をさまざまな原子に置き換える研究が精力的に行われてきました。しかし、CPPの全ての水素原子を他の原子に置き換えて合成できた例は無く、これまでは有効な合成方法が存在しませんでした。
本研究では、全ての水素原子がフッ素原子に置換された「ペルフルオロシクロパラフェニレン(PFCPP)」の合成に初めて成功しました。新たに開発した方法により、高価な貴金属触媒を用いることなく、安価なニッケルによって市販化合物からわずか2段階ワンポットで合成することができます。さらに、時間分解発光測定の結果、フッ素原子によってCPPの電子的性質が大きく変化し低温でリン光発光を示すことが明らかになりました。
本研究は、カーボンナノチューブの精密合成への大きな一歩となるだけでなく、フッ素原子を多数もった新たな有機機能性材料の開発を促進させる画期的な成果です。
本研究成果は、2022年6月28日付イギリス科学誌「Nature Communications」のオンライン速報版に掲載されました。

 

【ポイント】

・全フッ素化カーボンナノリング「ペルフルオロシクロパラフェニレン(PFCPP)」の合成に初めて成功した。
・合成は貴金属を用いない2段階ワンポット反応であり非常に簡便。
・フッ素原子によって電子的性質が大きく変化し、低温でリン光発光を示した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【論文情報】

雑誌名:英国科学誌「Nature Communications」
論文タイトル:“Perfluorocycloparaphenylenes”(ペルフルオロシクロパラフェニレン)
著者:周戸 大季桑山 元伸、島﨑 雅史、西原 大志、武田 洋平、三苫 伸彦、桑原 拓也八木 亜樹子、瀬川 泰知伊丹 健一郎は責任著者)※本学関係教員は下線
DOI: 10.1038/s41467-022-31530-x
URL: https://www.nature.com/articles/s41467-022-31530-x

 

※1【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。名古屋大学の強みであった合成化学、動植物科学、理論科学を融合させ、新たな学問領域であるストライガ、植物ケミカルバイオロジー研究、化学時間生物学(ケミカルクロノバイオロジー)研究、化学駆動型ライブイメージング研究などのフラッグシップ研究を進めています。ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究を行う「ミックス・ラボ、ミックス・オフィス」で化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発を行い、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。

 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)/大学院理学研究科 伊丹 健一郎 教授
http://synth.chem.nagoya-u.ac.jp