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医歯薬学

2022.07.15

皮下脂肪由来幹細胞で血管病を治療 -皮下脂肪由来幹細胞を利用した再生医療が下肢切断を救う!-

名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学の室原豊明(むろはら とよあき)教授、清水優樹(しみず ゆうき)助教、先進循環器治療学寄附講座の柴田玲(しばた れい)特任教授らの研究グループは、全国 7 施設との共同研究により「重症虚血肢(CLI)※1 に対する皮下脂肪由来間葉系前駆細胞を用いた血管新生療法」の安全性と有効性を検証しました。

 

皮下脂肪には、多分化能を有する脂肪組織由来間葉系前駆細胞(ADRCs:万能細胞)※2 が含まれることが明らかとされています。この皮下脂肪由来の万能細胞は、再生医療の供給源として注目を浴び、様々な再生医療分野で臨床応用が検討されています。本研究グループは、下肢切断を余儀なくされるような重症虚血肢患者 29 名(34 肢)を対象に、脂肪吸引法により採取した患者自身の皮下脂肪から万能細胞を分離し、分離した万能細胞を筋肉注射法で虚血肢(患部)に移植しました。その結果、対象患者の 90%以上で切断が回避され、ほぼ全ての患者で、創傷部の潰瘍が縮小し、歩行距離も大幅に延長しました。

 

重症虚血肢を対象とした皮下脂肪由来の万能細胞を利用した多施設共同臨床試験は世界初であり、切断のみしか選択肢が残されていない重症虚血肢患者に対し、本治療が、安全性と有効性、特に四肢救済につながることを証明した形となりました。本研究結果は国際科学誌である「Angiogenesis」電子版(2022 年 7 月 8 日付)に掲載されました。

 

【ポイント】

○重症虚血肢は、生活習慣の改善、薬物療法、血行再建術などの集学的治療を行うにもかかわらず、四肢切断を余儀なくされるケースが多く、死亡率も非常に高い。
○皮下脂肪には、多分化能を有する脂肪組織由来間葉系前駆細胞(ADRCs:万能細胞)が含まれる。
○今回、下肢切断を余儀なくされるような重症虚血肢患者を対象に、脂肪吸引法により脂肪を採取し、万能細胞を分離し、患部に移植した。
○脂肪由来の万能細胞の患部への移植は、重症虚血肢患者の切断を回避し、創部の潰瘍を縮小させ、歩行距離も大幅に延長させた。
○本研究は、世界初の重症虚血肢を対象とした皮下脂肪由来の万能細胞を利用した多施設共同臨床試験である。その上で、本治療の安全性と有効性を示した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 CLI; Critical Limb Ischemia (重症虚血肢)
PAD の病状が進行した状態で、安静時にも痛みが持続し、末梢組織の潰瘍や壊死などの症状を呈します。最悪の場合には下肢の切断といった治療が必要となり、生活の質(Quality of Life: QOL)が著しく低下します。
※2 ADRCs; adipose-derived regenerative cells(脂肪組織由来間葉系前駆細胞)
皮下脂肪組織中に存在する多分化能を有する幹/前駆細胞です。様々な疾患に対する再生医療の細胞供給源として注目されています。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Angiogenesis
論文タイトル:Therapeutic angiogenesis for patients with No-Option Critical limb ischemia by Adipose-derived Regenerative Cells: TACT-ADRC multicenter trial
著 者 : Yuuki Shimizu1; Kazuhisa Kondo 1; Ryo Hayashida1; Ken-ichiro Sasaki 2; Masanori Ohtsuka 2; Yoshihiro Fukumoto 2; Shin-Ichiro Takashima3; Oto Inoue 3; Soichiro Usui 3;Masayuki Takamura 3; Masashi Sakuma4; Teruo Inoue 5; Tokuichiro Nagata 6; Yoshihiro J. Akashi7; Yoshihiro Yamada 8; Tamon Kato 9; Koichiro Kuwahara9; Kaoru Tateno10; Yoshio Kobayashi 10; Rei Shibata 11; Toyoaki Murohara1; on behalf of the TACT-ADRC multicenter trial Group
所属名:
1 Department of Cardiology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2 Division of Cardiovascular Medicine, Department of Internal Medicine, Kurume University School of Medicine, Kurume, Japan
3 Department of Cardiovascular Medicine, Graduate School of Medical Science, Kanazawa University, Kanazawa, Japan
4 Department of Cardiovascular Medicine, Dokkyo Medical University, Mibu, Japan
5 Nasu Red Cross Hospital, Dokkyo Medical University, Japan
6 Department of Cardiovascular Surgery, St. Marianna University School of Medicine, Kawasaki City, Kanagawa, Japan
7 Division of Cardiology, Department of Internal Medicine, St. Marianna University School of Medicine, Kawasaki City, Kanagawa, Japan
8 Department of Cardiovascular Medicine, Fukuoka Tokushukai Medical Center, Fukuoka, Japan
9 Department of Cardiovascular Medicine, Shinshu University School of Medicine, Matsumoto, Japan
10 Department of Cardiovascular Medicine, Chiba University Graduate School of Medicine, Chiba, Japan
11 Department of Advanced Cardiovascular Therapeutics, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
DOI:10.1007/s10456-022-09844-7

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Ang_220714en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 室原 豊明 教授
https://www.med-nagoya-junnai.jp