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複合領域

2022.07.15

高齢の運転者はなぜブレーキを踏み間違うのか ~踏み間違えなくても高齢者の脳はフル活動~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院情報学研究科の川合 伸幸 教授らの研究グループは、信号の形や色に合わせて手や足で反応する実験により、高齢者は大学生に比べて、反応の切り替えや抑制を担う前頭葉の活動を必要とし、多くの脳活動を必要としていることを示しました
近年、高齢者のブレーキ踏み間違い事故が増えています。加齢に伴う認知機能の低下や脳機能の変化が想定されますが、実証的に調べた研究はありませんでした。
本研究の実験で、高齢者と大学生の前頭前野の神経活動注1)(脳血流)の変化を調べたところ、ペダルを押すまでの時間と神経活動が対応しており、高齢者は大学生に比べてペダルを押す判断時間が遅く、前頭葉全体の神経活動も高いことが分かりました。高齢者と大学生のいずれも、足で斜めにペダルを押す時の方が、まっすぐペダルを押す時よりも判断時間が遅く、反応切り替えに関わる大脳皮質の前頭前野左背外側部注2)の神経活動が亢進(こうしん)しました。
このことは、足よりも手の反応、また足で斜めにペダルを押す時の反応は認知負荷注3)が高いこと、さらに高齢者は大学生に比べて課題を遂行するために多くの脳活動を必要としていることを示しています
今後、実際の運転に近い状況で研究を進めることで、高齢者のブレーキ踏み間違い事故の原因と状況が解明されることが期待されます。
本研究成果は、2022年6月23日付国際科学誌「Behavioural Brain Research」に掲載されました。

 

【ポイント】

・ペダルを踏み換える実験で、高齢者は大学生と同等の成績(踏み間違い数)を示したが、大学生に比べて反応の切り替えや抑制を担う前頭葉全体で神経活動が亢進した。
・右足で右ペダルを踏むより(直行条件)、右足で左ペダルを踏む斜交条件の方が、どの年齢でも判断時間を要し、左背外側の神経活動が多かったが、手でペダルを押す時には直行条件と斜交条件で神経活動の違いはなかった。
・神経活動の亢進は、判断時間と対応しており、認知負荷の高さにあわせて神経が活動したと考えられる。
・高齢者の神経活動の高さは、若者と同等の好成績を収めるための補償的な反応と考えられる。
・高齢者は、大学生と同等の成績(踏み間違い数)を収めるために、実行機能注4)を担う前頭葉全体の神経活動を賦活させる必要がある。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)神経活動:
近赤外線分光法を用いて、頭部から大脳皮質の血流量の変化を調べることで、その領域の神経活動を推定する。

 

注2)前頭前野左背外側部:
大脳皮質の前頭前野の左側の眉の奥あたりの領域で、右手から左手へ、あるいは右ボタンから左ボタンへ切り替える際などに活性化する領域。

 

注3)認知負荷:
認知的は処理の負荷。認知負荷が低い作業は意識を向けずに作業できるが、例えば、運転しながらスマートフォンを操作するなど、複数の処理を同時に実行する際には認知負荷が高まる。

 

注4)実行機能:
複雑な課題の遂行に際し、課題ルールの維持やスイッチング、情報の更新などを行うことで、思考や行動を制御する認知システム、あるいはそれら認知制御機能の総称。新しい行動パターンの促進や、非慣習的な状況における行動の最適化に重要な役割を果たし、人間の目標志向的な行動を支えているとされ、その神経基盤は前頭前野に存在すると考えられている。

 

【論文情報】

雑誌名:Behavioural Brain Research
論文タイトル:Do older adults mistake the accelerator for the brake pedal?: Older adults employ greater prefrontal cortical activity during a bipedal/bimanual response-position selection task.
著者:Kawai, N., & Nakata, R. (川合伸幸・中田龍三郎<当時、名古屋大学所属>)※本学関係教員は下線
DOI: https://doi.org/10.1016/j.bbr.2022.113976
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0166432822002443?via%3Dihub

 

【研究代表者】

大学院情報学研究科 川合 伸幸 教授
http://www.cog.human.nagoya-u.ac.jp/~kawai/