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数物系科学

2022.08.02

120億年前の銀河周辺のダークマターの存在を初検出! 宇宙は予想外になめらかだった? ~多波長観測が描いた遠方宇宙の姿~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学素粒子宇宙起源研究所の宮武 広直 准教授らは、東京大学宇宙線研究所の播金 優一 助教、大内 正己 教授らとの共同研究により、約120億年前の遠方宇宙における銀河周辺のダークマター注1)の存在の検出に世界で初めて成功しました。
ダークマター分布は背景光源に現れる重力レンズ効果注2)を用いて測定することができますが、これまでは背景光源として遠方銀河を用いたものが主流であったため、遠方銀河そのものの周りのダークマター分布を測定することは不可能でした。
本研究では、背景光源としてビッグバン直後の熱い宇宙が放った宇宙マイクロ波背景放射注3)を用いることによって、遠方銀河周辺のダークマターを検出しました。さらに、遠方宇宙におけるダークマターの空間分布を調べると、標準宇宙論注4)の予言と比べて、分布のでこぼこが小さく、食い違っている可能性(確率約90%)が出てきました。この食い違いが本当だとすると、私たちがもつ宇宙像は転換を迫られるため、今後の更なる検証が必要です。
本研究成果は、2022年8月1日午後11時(日本時間)付アメリカ物理学会の雑誌「Physical Review Letters」に掲載されました。本研究成果はEditors’ Suggestionに選ばれ、同誌の中でも重要論文に位置付けられています。
本研究は、科学研究費助成事業・基盤研究(A)(JP15H02064)、基盤研究(B) (JP20H01932)、新学術領域研究(公募研究)(19H05100,21H00070)の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・可視光とマイクロ波のデータを組み合わせることにより、約120億年前の遠方銀河周辺のダークマターの存在を世界で初めて検出した。
・この測定から120億年前の宇宙構造のでこぼこを測定し、標準宇宙論から予測される値よりも小さい値を得た。ただし、この値の統計的有意性は約90%に留まるため今後の更なる検証が必要である。
・2020年代の大規模探査計画ではより精度のよい測定が可能になる。本研究はこれらの大型観測計画を用いた研究の先駆けとなるものである。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)ダークマター:
宇宙のエネルギー密度の約27%を占める正体不明の物質。自ら光を発さず、望遠鏡では直接観測できないが、現在の宇宙の構造を作る主な重力源であることが知られている。

 

注2)重力レンズ効果:
遠方の光源から来る光が、手前にある(ダークマターを含む)質量構造によって曲げられる現象。その結果、光源が複数の像になって見えたり、光源の形が歪んで観測されたりする。本研究では後者の効果を用いている。

 

注3)宇宙マイクロ波背景放射:
宇宙が生まれてから約38万年後に、宇宙の温度が下がり、それまでプラズマ状態だった宇宙の陽子と電子が結合することによって、光子が自由に運動することが可能になった。これが、我々が光で見ることができる最古の宇宙であり、宇宙マイクロ波背景放射と呼ばれる。

 

注4)標準宇宙論:
これまでの宇宙論的観測は、銀河形成の重力源となるダークマター、近傍宇宙の加速膨張の源となる暗黒エネルギーを含むΛCDM標準宇宙論でよく説明できる。この標準宇宙論は、宇宙の物質分布のでこぼこの程度σ8やダークマターのエネルギー密度Ωmを含む6つの宇宙論パラメータで記述される。

 

【論文情報】

雑誌名:Physical Review Letters
論文タイトル:First Identification of a CMB Lensing Signal Produced by?1.5 Million Galaxies at?z?4: Constraints on Matter Density Fluctuations at High Redshift
著者:
Hironao Miyatake (Kobayashi-Maskawa Institute for the Origin of Particles and the Universe, Nagoya University; Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe, The University of Tokyo)
Yuichi Harikane (Institute for Cosmic Ray Research, The University of Tokyo)
Masami Ouchi (National Astronomical Observatory of Japan; Institute for Cosmic Ray Research, The University of Tokyo; Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe, The University of Tokyo)
Yoshiaki Ono (Institute for Cosmic Ray Research, The University of Tokyo)
Nanaka Yamamoto (Division of Physics and Astrophysical Science, Graduate School of Science, Nagoya University)
Atsushi J. Nishizawa (DX Center, Gifu Shotoku Gakuen University; Institute for Advanced Research, Nagoya University)
Nata Bahcall (Department of Astrophysical Sciences, Princeton University)
Satoshi Miyazaki (National Astronomical Observatory of Japan)
Andrés A. Plazas Malag?n (Department of Astrophysical Sciences, Princeton University)
※本学関係教員は下線
DOI: 10.1103/PhysRevLett.129.061301
URL:https://journals.aps.org/prl/accepted/9e075Y18Pa61c787673d8052a720dad1051463b2c                                       

 

【研究代表者】

素粒子宇宙起源研究所 宮武 広直 准教授
https://www.kmi.nagoya-u.ac.jp/member-visitors/members/3734/