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生物学

2022.08.30

蚊の「耳」を操る物質を発見 ~感染症を媒体する蚊の繁殖抑制に期待~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の上川内 あづさ 教授、マシュー スー 特任助教らの研究グループは、一般に“ヤブ蚊”とも呼ばれる吸血する蚊の一種「ネッタイシマカ」の聴覚器の機能が、神経修飾物質注1)である「セロトニン」注2)によって制御されることを新たに発見しました。
ネッタイシマカは、一般熱帯や亜熱帯地域に分布し、黄熱、デング熱、ジカ熱などの感染症を媒介します。地球温暖化の影響でその分布域は少しずつ広まっており、日本を含めた多くの温帯地域も、これら感染症の脅威にさらされつつあります。
本研究では、ネッタイシマカの繁殖を制御するための新たな標的として、蚊の聴覚に着目しました。蚊は、昆虫の中で最大の聴覚器を持っており、この卓越した聴覚を駆使して配偶パートナーを見つけます。私たちは、ネッタイシマカの聴覚器の機能が、私たち人間の脳でも使われている神経修飾物質「セロトニン」によって制御されることを初めて発見しました。今後、セロトニンに着目した研究を進めることで、ネッタイシマカの聴覚を標的とした新たな蚊の繁殖制御戦略の策定に貢献できると期待されます。
本研究成果は、2022年8月29日付国際科学雑誌「Frontiers in Physiology」に掲載されました。

 

【ポイント】

・デング熱やジカ熱を媒介するネッタイシマカの聴覚を制御する機構を発見した。
・ヒトや昆虫など多くの動物で共通する神経修飾物質が、蚊の聴覚機能を調節する。
・蚊の繁殖を抑制する新たな方法論の開発につながることが期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)神経修飾物質:
 神経細胞から放出されて広く拡散し、脳や神経系に持続的な影響を与える物質の総称。ドーパミンやセロトニンなどが代表例。

 

注2)セロトニン:
 脳内で神経伝達物質、神経修飾物質として脳や神経機能の調節に関与する物質。哺乳類と昆虫の両者において、日周リズム、食欲、睡眠、攻撃性や学習などの様々なプロセスに関わる。

 

【論文情報】

雑誌名:Frontiers in Physiology
論文タイトル:Serotonin modulation in the male Aedes aegypti ear influences hearing
著者:Yifeng YJ Xu‡, YuMin Loh‡, Tai-Ting Lee, Takuro S. Ohashi, Matthew P Su†, Azusa Kamikouchi† (‡共同第一著者, †共同責任著者)       
DOI: 10.3389/fphys.2022.931567
URL: https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphys.2022.931567/full

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 上川内 あづさ 教授
https://www.bio.nagoya-u.ac.jp/~NC_home/index2.htm