国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の阿部 秀樹 准教授、安立 昌篤 講師（当時。現在：東北大学大学院薬学研究科 准教授）、西川 俊夫 教授らの研究グループは、フグ毒テトロドトキシン（TTX）の類縁体の一つである5,6,11-トリデオキシTTX（TDT）が、フグを誘引する匂いとして働くことを発見しました。
これまでは、猛毒のTTXがフグを誘引するフェロモン注4）様物質として働くことが報告されていました。しかし本研究では、クサフグがTTXそのものではなく、体内にTTXとともに大量に保有しているTDTという無毒のTTX類縁体を「嗅ぐ」ことができ、この分子に誘引されることを発見しました。これは定説を覆す新発見です。フグは自らTTXを生産できず、TTXを含む生物をエサとして食べる事で毒を持つようになる（毒化といいます）ことが知られています。フグはエサにTTXと一緒に含まれるTDTの匂いに惹きつけられることで積極的に自らの体に毒を取り込んで毒化し、繁殖時にはTDTを使って異性を見つけるために利用していることなどが考えられます。
本研究成果は、無毒のTDTの生物機能を初めて明らかにしたもので、未だ明らかになっていないフグの毒化機構や繁殖行動の研究に大きなインパクトを与えると考えられます。その結果、フグを安全に食べるための公衆衛生面に重要な情報を提供できることも期待されます。
本研究成果は、2022年9月5日付Springer Nature社が発行する国際科学誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。
・フグは猛毒のフグ毒テトロドトキシン（TTX）注1）ではなく，無毒の類縁体注2）5,6,11-トリデオキシTTX（TDT）注3）を匂いとして感じて、その匂いに誘引されることを発見した（定説を覆す新発見）。
・フグの鼻にあるTDTを感知する細胞を特定した。
・フグが大量に保有する無毒のTDTの生物機能を初めて明らかにした。
・TDTはフグの毒化やフグの繁殖行動に重要な役割を果たす分子に違いない。
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注1）テトロドトキシン（TTX）：
一般にフグ毒として知られる有機化合物。ビブリオ属やシュードモナス属などの一部の細菌によって生産されていると考えられている。神経や筋肉の興奮を抑えて麻痺させる毒として作用する。
注2）類縁体：
ある化学物質と構造が似ているが、一部の構造が異なる化学物質のこと。
注3）5，6，11-トリデオキシTTX（TDT）：
5, 6，11位の3つの水酸基が欠落したTTXの類縁体。TTXに比べて神経や筋肉の興奮に関わるナトリウムチャネルと結合する能力が1/3000以下で、毒性をほとんど示さない。
注4）フェロモン：
動物から放出される、同じ種の他の個体に一定の行動や発育変化を促す物質のこと。
雑誌名：Scientific Reports
論文タイトル：An almost nontoxic tetrodotoxin analog, 5,6,11-trideoxytetrodotoxin, as an odorant for the grass puffer
著者：Yoshihisa Noguchi（研究当時 生命農学研究科・博士 前期課程）, Takehisa Suzuki（生命農学研究科・博士 後期課程）, Keigo Matsutani（研究当時 生命農学研究科・博士 前期課程）, Ryo Sakakibara（研究当時 生命農学研究科・博士 前期課程）, Ryota Nakahigashi（研究当時 生命農学研究科・博士 前期課程）, Masaatsu Adachi(研究当時 生命農学研究科・講師，現 東北大学・准教授), Toshio Nishikawa（生命農学研究科・教授）, and Hideki Abe（生命農学研究科・准教授）
DOI：10.1038/s41598-022-19355-6
URL：https://www.nature.com/articles/s41598-022-19355-6
