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工学

2022.10.12

鉄道路線情報を活用して都市域通信ネットワークモデルを構築 -Beyond 5Gの研究開発を促進する東京23区モデルを公開-

現在、第6世代移動通信システム(6G)を含むBeyond 5G(B5G)の研究開発が進められており、5Gで実現される「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」の高度化に加え、「超低消費電力」「超安全・信頼性」「自律性」「拡張性」などの持続可能で新しい価値の創造が期待されている。そのためには、無線通信部分の研究開発だけでなく有線ネットワーク部分の研究開発もこれまで以上に重要となり、自動運転のような超低遅延サービスを想定すると規模が限定的な都市域ネットワーク(以下、メトロポリタンエリアネットワーク、MAN)(注1)を対象とした研究開発が特に望まれる。
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科 長谷川浩 教授は、MAN を対象としたB5Gの研究開発を促進するために、国立大学法人福井大学 工学系部門 工学領域 情報・メディア工学講座 橘拓至 教授、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))廣田悠介 主任研究員、国立研究開発法人産業技術総合研究所 鈴木恵治郎 主任研究員、株式会社KDDI総合研究所 釣谷剛宏 執行役員と共に、共同でコンピュータシミュレーション(注2)や最適化問題(注3)で利用可能なMANトポロジ・モデル(注4)を構築するアルゴリズム(注5)を確立した。確立したアルゴリズムでは、MANトポロジ・モデルを構築するために世界で初めて鉄道路線情報を活用しており、鉄道の路線が存在する地域であれば広く利用可能である。本研究では、この構築アルゴリズムを使って東京23区を対象としたサイズが異なる2つのトポロジを構築し、それぞれ昼と夜の計2種の人口分布を設定した計4つのMANモデルを構築した。

 

【ポイント】

◆第5世代移動通信システム(5G)以降のBeyond 5Gに関する研究開発を促進するために、都市域ネットワークのトポロジ・モデルを構築可能な鉄道路線情報を活用した構築アルゴリズムを確立した。
◆鉄道路線情報を活用した都市域通信ネットワークモデルの構築アルゴリズムは、本研究が世界で初めて確立したものである。
◆確立したアルゴリズムを用いて、東京23区を対象とした計4つのネットワークモデルを構築し、学術論文誌で公開した(2022年10月3日早期公開、2023年4月から正式版が無料公開)。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 
【用語説明】

(注1)都市域通信ネットワーク、メトロポリタンエリアネットワーク、Metropolitan Area Network (MAN)
都市や市街地の一部もしくは全部をカバーする通信ネットワークを指し、カバー範囲はLAN(ローカルエリアネットワーク)よりも広く、WAN(ワイドエリアネットワーク)よりも狭い。

 

(注2)コンピュータシミュレーション
現実の現象やシステムの動きを模擬するプログラムをコンピュータ内で実行して、現実の現象やシステムをコンピュータ上で再現してその性能などを把握する手法である。通信ネットワーク技術の研究開発では、実ネットワークを使ったデータ伝送実験は実施が難しいため、コンピュータ上で伝送されるデータなどのふるまいを模擬するコンピュータシミュレーションが広く利用される。

 

(注3)最適化問題
与えられた制約の下である目的を達成したい場合に、この制約や目的を数式で表現しその数式の解を求める問題のことを示す。たとえば有名なナップサック問題では、ナップサックの大きさ、つまり中に入れられる品物の合計サイズが制約となり、ナップサックの中に入っている品物の総価値を最大にすることが目的となる。通信ネットワークの研究では、データを伝送する経路や各種機器の配置などを決定する場合などに最適化問題が広く利用される。事象のふるまいを時間の流れとともに模擬するコンピュータシミュレーションとは異なり、最適化問題ではある瞬間における最適な選択を決定することになる。それゆえ、ナップサック問題の例では、ナップサックの大きさが途中で変わった場合には、新しい最適化問題を作って解を導出しなければならない。

 

(注4)ネットワークトポロジとネットワークモデル
ネットワークトポロジは通信ネットワーク上の各機器の接続形態を示し、各機器を示すノードとケーブルを示すリンクで構成される。例えば、x個のノードがx本のリンクで円状に接続されているネットワークのトポロジはリングトポロジと呼ばれる。また、本研究では、各ノードに人口の情報を付与されているトポロジのことをモデルと呼ぶ。

 

(注5)アルゴリズム
与えられた問題の解を導出したり、課題を解決したりするための計算手順や処理手順を示す。本研究で確立したアルゴリズムでは、図1や図2のMANトポロジ・モデルを構築する際に、処理手順の中で東京の鉄道路線情報を活用している。

 

【論文情報】

〈論文タイトル〉

“Metropolitan Area Network Model Design using Regional Railways Information for Beyond 5G Research”
日本語翻訳(非公式):「Beyond 5Gに関する研究のための鉄道路線情報を用いたメトロポリタンエリアネットワークモデルの構築」

 

〈著者〉
Takuji Tachibana, Yusuke Hirota, Keijiro Suzuki, Takehiro Tsuritani,
and Hiroshi Hasegawa

 

橘 拓至  (国立大学法人福井大学 工学系部門 工学領域 情報・メディア工学講座 教授)
廣田 悠介 (国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT) ネットワーク研究所 フォトニックICT研究センター 主任研究員)
鈴木 恵治郎 (国立研究開発法人産業技術総合研究所 プラットフォームフォトニクス研究センター 主任研究員)
釣谷 剛宏  (株式会社KDDI総合研究所 執行役員)
長谷川 浩  (国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 大学院工学研究科 教授)

 

〈発表雑誌〉
電子情報通信学会の「IEICE Transactions on Communications(アイ・イ―・アイ・シー・イー トランザクションズ オン コミュニケーションズ)」電子版に2022年10月3日プレ公開、2023年4月1日に正式版発行予定
DOI: 10.1587/transcom.2022EBN0001
URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/transcom/advpub/0/advpub_2022EBN0001/_article

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 長谷川 浩 教授
http://www.nuee.nagoya-u.ac.jp/labs/pnlab/index.html