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生物学

2022.10.12

内在性レトロウイルス配列によってヒトのエピゲノムが変化してきたことを発見! ~ヒトとチンパンジーのiPS細胞の比較解析から~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の平田 真由 博士前期課程学生(研究当時)、一柳 健司 教授らの研究グループは、国立大学法人 京都大学ヒト行動進化研究センターの今村 公紀 助教らとの共同研究で、ヒトとチンパンジーのiPS細胞を用いて遺伝子発現(トランスクリプトーム)とヒストン修飾状態(エピゲノム)の比較解析を行い、内在性レトロウイルスの転移によって種特異的なエピゲノム状態が生じ、遺伝子発現パターンが変化してきたことを発見しました。
この研究成果は、ジャンクDNAあるいは寄生DNA因子と考えられていた内在性レトロウイルスが、霊長類のエピゲノム進化を駆動していることを示すとともに、今後、細胞分化過程におけるエピゲノム変遷プログラムの種特異性を理解する基盤になると期待されます。
本研究成果は、2022年10月12日午前6時(日本時間)付国際分子生物進化学会誌「Molecular Biology and Evolution」オンライン版に掲載されました。 

 

【ポイント】

 

・ヒトとチンパンジーのiPS細胞の遺伝子発現とエピゲノム注1)を比較した。
・遺伝子発現パターンもエピゲノムも、全体的にはよく似ていた。
・LTR5という内在性レトロウイルス注2)がヒト特異的あるいはチンパンジー特異的に挿入されたゲノム領域では、挿入部位近傍のエピゲノムが大きく変化していた。
・本研究の成果は今後、iPS細胞注3)を神経細胞などに分化させ、細胞分化過程でどのように遺伝子発現やエピゲノムが変化するのかを種間で比較する際の基盤となる。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)エピゲノム:
エピジェネティックな化学修飾がゲノム上のどこに存在するのか、その修飾の全体を表す概念。

 

注2)内在性レトロウイルス:
レトロトランスポゾンの一種。進化的な起源やDNA配列がレトロウイルスと非常に近いので、内在性レトロウイルスと呼ばれるが、ウイルスではない。

 

注3)iPS細胞:
分化した体細胞にYamanaka因子を強制的に発現させることで、未分化な状態に変化させた細胞のこと。適切な培地で培養することによって、さまざまな細胞に分化させることができる。近年では臓器に似た三次元構造体(オルガノイド)の作成も可能である。

 

【論文情報】

雑誌名:Molecular Biology and Evolution
論文タイトル:Sequence divergence and retrotransposon insertion underlie interspecific epigenetic differences in primates
著者:平田真由1、一柳朋子1、加藤大和1、橋本拓磨1、鈴木輝1、新田洋久1、川瀬雅貴1、仲井理沙子2、今村公紀2、一柳健司1
所属:1名古屋大学大学院生命農学研究科、2京都大学ヒト行動進化研究センター
DOI: 10.1093/molbev/msac208
URL: https://academic.oup.com/mbe/advance-article/doi/10.1093/molbev/msac208/6730452?login=true

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 一柳 健司 教授
http://nuagr2.agr.nagoya-u.ac.jp/~ged/index.html