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生物学

2022.10.11

植物の膜輸送体の基質選択性を操作することに成功 ~二種類の基質を運ぶSWEET13の花粉成熟における機能が明らかに~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の中村 匡良 特任准教授、礒田 玲華 博士研究員、ゾルタン パルマイ博士研究員(研究当時)、ウォルフ フロマー 客員教授、吉成 晃 YLC特任助教、フロレンス タマ 教授らの研究グループは、分子ドッキングと分子動力学シミュレーションにより、植物の輸送体SWEET13が異なる二種類の基質(スクロースとジベレリン)を認識する際の構造をそれぞれ予測し、予測されたアミノ酸残基への変異導入によりSWEET13の基質選択性を操作することに成功しました。この手法により、基質ごとにSWEET13の輸送活性を調べることが可能となり、シロイヌナズナの花粉成熟にはスクロースの輸送が重要であることが明らかになりました。
本研究に用いた研究手法は、複数の基質を持つ膜輸送体や酵素の働きや基質選択性を理解する上で有効と言えます。将来的にはこの手法を様々な輸送体や酵素に活用することで、農作物育種への応用も期待されます。
本研究成果は、2022年10月11日付アメリカ科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」に掲載されました。

 

 【ポイント】

・スクロースとジベレリンを輸送するたんぱく質SWEET13のそれぞれの基質認識に関与するアミノ酸残基を分子ドッキング注1)と分子動力学シミュレーション注2)により予測した。
・予測を基にした変異導入と機能解析により、SWEET13のスクロースとジベレリンの輸送活性を切り分けることに成功した。
sweet13;14変異体が示す雄性不稔注3)は、ジベレリンではなく、スクロースを輸送する機能の欠失によることを明らかにした。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)分子ドッキング:
二つ以上の分子構造(例えば、化合物と酵素やタンパク質)がそのように結合するかを計算により予測すること。

 

注2)分子動力学シミュレーション:
一定時間における原子の動きと相互作用を解析するコンピューターシミュレーション。

 

注3)雄性不稔:
正常な花粉が作れない性質。

 

【論文情報】

雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences
論文タイトル:SWEET13 transport of sucrose, but not gibberellin, restores male fertility in Arabidopsis sweet13;14
著者:Reika Isoda, Zoltan Palmai, Akira Yoshinari, Li-Qing Chen, Florence Tama, Wolf B.Frommer and Masayoshi Nakamura(下線は本学関係者)
DOI: 1073/pnas.2207558119
URL: www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2207558119

 

【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究を行うミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発を行い、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。

 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM) 中村 匡良 特任准教授
https://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/frommer-nakamura/home_jp.html