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医歯薬学

2022.10.11

収縮期血圧の長期的な変動は、将来の 2 型糖尿病の発症率の増加と関連

名古屋大学大学院医学系研究科 国際保健医療学・公衆衛生学の八谷 寛 教授、宋 澤安 大学院生のらの研究チームは、経年的に収集した健診成績から把握した収縮期血圧(最高血圧)の長期的な変動が、その後の 2 型糖尿病の発症率の増加と関連していることを明らかにしました。
健診結果の長期的な変動とその後の健康状態との関連は十分わかっていません。収縮期血圧は加齢とともにその値が高くなることが多いですが、健診時の血圧値がばらつくことの意義は不明でした。
2 型糖尿病は、インスリンの分泌低下と作用不足により血糖値が慢性的に高くなる疾病で、失明、腎不全、神経障害、心筋梗塞や脳卒中などの原因となります。生活習慣の変化や高齢化により 2 型糖尿病の有病率は増加しており、国際的にもその予防や管理が問題になっています。
本研究チームは、中部地方の自治体公務員の協力を得て実施している愛知職域コホート研究(1)のデータを用いて、収縮期血圧の長期的な変動を数学的な指標により示し、その後約 10 年間の追跡調査を行って、血圧変動の大きさと 2 型糖尿病の発症率との関係を調べました。その結果、収縮期血圧の変動が大きいほど 2 型糖尿病発症率が高くなることを、変動の大きさに関連するその他の要因の影響を統計学的な解析方法により取り除いて証明しました。収縮期血圧が変動する原因の一つとして交感神経系の機能異常が推察されます。すなわち、本研究結果から、2 型糖尿病の発症に先行する病態として交感神経系の機能の変化が存在する可能性を見出しました。収縮期血圧の長期的変動の原因や変動が 2 型糖尿病発症に繋がるメカニズムを明らかにすることで 2 型糖尿病発症予防に寄与する知見が得られることが考えられます。また、別の集団においても同様の観察がなされるなど知見が確立し、変動の基準値も設定できれば、健診成績の長期的保存・活用の仕組みの発展とも合わせ、2 型糖尿病発症リスクの高い方の早期発見に役立つことが期待されます。
本研究成果は、2022 年 10 月 14 日に国際高血圧学会(International Society of Hypertension)(京都)にて、アジア太平洋高血圧学会若手研究者奨励賞(APSH Young Investigator Award)受賞演題として発表されます。また、日本高血圧学会の学会誌である「Hypertension Research」(電子版)
に 2022 年 8 月 18 日に掲載されました。

 

【ポイント】

 

○健診時に測定する収縮期血圧(最高血圧)の経年的な変動(ばらつき)の大きさの個人差は、同じ期間の血圧値の変化(例えば、高くなる程度)が同じであったとしても、その後の 2 型糖尿病の発症率の差異と関連しました。
○収縮期血圧の長期変動の原因を明らかにすることは、2 型糖尿病の発症メカニズムのさらなる解明に繋がり、より効果的な予防対策の開発に有用となることが考えられます。
○将来的には収縮期血圧の長期変動を用いて、2 型糖尿病発症リスクが高く、積極的な予防対策が必要な個人の早期検出につなげる可能性も期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

(1) 愛知職域コホート研究
http://koei-nagoya.blogspot.com/
愛知県内の職域勤労者を対象に平成 9 年に発足した前向き追跡研究(コホート研究)。今までにベースラインを含め概ね 5 年おき、計 5 回の包括的な質問紙調査の実施とともに、経年的な健診成績の把握、心血管疾患、高血圧や糖尿病など生活習慣病の発症状況の確認を行って、統計解析を行っている。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Hypertension Research
論文タイトル:Long-term variability and change trend of systolic blood pressure and risk of type 2 diabetes mellitus in middle-aged Japanese individuals: findings of the Aichi Workers’ Cohort Study
著者:Zean Song1, Yupeng He1,2, Chifa Chiang1, Abubakr A. A Al-shoaibi1, KM Saif-Ur-Rahman1, Md Razib Mamun1, Atsuko Aoyama1,3, Yoshihisa Hirakawa1, Masaaki Matsunaga2, Atsuhiko Ota2, Koji Tamakoshi4, Yuanying Li2, Hiroshi Yatsuya1
所属名: 1Department of Public Health and Health Systems, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Aichi, Japan
2Department of Public Health, Fujita Health University School of Medicine, Toyoake, Aichi, Japan
3Nagoya University of Arts and Sciences, Nisshin, Aichi, Japan
4Department of Nursing, Nagoya University School of Health Sciences, Nagoya, Aichi, Japan

 

DOI: 10.1038/s41440-022-00993-2

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Hyp_221011en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 八谷 寛 教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/basic-med/social-science/public-health/