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化学

2022.10.13

医薬品の開発加速・合成コスト削減に貢献する複雑な光学異性体化合物を合成する新手法を開発 二つの触媒が調和することで自由な分子設計が可能に

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院創薬科学研究科 北村 雅人 教授(研究当時。現在は名古屋大学名誉教授)、博士後期課程3年Le Phuc Thien氏(研究当時)は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所触媒化学融合研究センター 官能基変換チーム 田中 慎二 主任研究員、佐藤 一彦 研究センター長と共同で、連続する三つの不斉炭素をもつ化合物を合成し、これまで不可能とされてきたそれらの構造を選択的に制御することができる新しい有機合成手法を開発しました。
この新手法の鍵工程として、パラジウム(Pd)触媒とルテニウム(Ru)触媒を同時に用いることにより、通常では反応しないアセト酢酸エステルとアリルアルコールを結合させることができます。これは、水以外の副生成物を排出しない反応です。新手法は、二つの触媒の構造をそれぞれ使い分けることで、生成物の不斉炭素に結合する成分をそれぞれ右側あるいは左側に選んで配置できます。これまでの合成法では、この成分が勝手に左右で移動してしまい、必ず混合物として得られるため、一種類だけを選択的に作り出すことは不可能とされていました。新手法は不可能を可能にした世界で初めての成功例です。酸・塩基を用いない中性条件で進行することがこの反応の特徴です。さらに、還元反応で作られる成分も左右に自由に配置できるため、八つの異性体を選択的に設計合成ができるようになりました。このような、不斉炭素に結合する成分の左右を選択的に合成することは、医薬品開発に重要な薬理活性獲得の要とされており、創薬研究の発展に貢献します。
なお、この技術の詳細は、2022年10月12日(現地時間)に「Nature Communications」に掲載されました。

下線部は【用語解説】参照

 

【ポイント】

* 非対称性構造をもつ二種類の触媒を共存させる新しい触媒的有機合成法の開発に成功
* 二つの触媒が二つの原料を別々に活性化する反応機序により、自在な異性体選択性の発現が可能
* 複雑な光学異性体への構造変換が可能となることで、創薬研究の加速に貢献

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
 

【用語説明】

不斉
非対称性、あるいは非対称性をもつこと。非対称性をもつものは、鏡に映った鏡像構造(鏡像体)とは互いに重なり合わない、右手と左手の関係にある。一方で非対称性をもたないものは鏡像構造と同じものになる。
 

【論文情報】

掲載誌:Nature Communications
論文タイトル:Stereodivergent Dehydrative Allylation of ?-Keto Esters Using a Ru/Pd Synergistic Catalyst
著者:Thien Phuc Le, Shinji Tanaka*, Masahiro Yoshimura, Kazuhiko Sato, Masato Kitamura*