国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の松林 嘉克 教授、大西 真理 助教らの研究グループは、植物のストレス応答と成長の切替えを制御するペプチドホルモン注1)PSYとペプチドホルモン受容体注2)PSYRを新たに発見しました。
植物は、自然環境下における病害・温度・塩などのストレスに適応するために、成長に使うエネルギーの一部を状況に応じてストレス応答に回すしくみを持っており、ストレス応答が活性化すると、代償として成長は抑制されます。このしくみは、「成長とストレス応答のトレードオフ」と呼ばれ、長い研究の歴史がありますが、これまではストレスを受けた細胞自身の中で起こる応答に着目した研究がほとんどでした。
本研究では、細胞間を移行して離れた細胞に作用できるペプチドホルモンPSYとその受容体PSYRが、ストレス応答のONとOFFを切り替えていることを発見しました。PSYとPSYRのはたらきにより、ストレスによってダメージを受けた部位の周辺部だけにストレス応答を誘導できるため、効率よくダメージ部位の拡大を防ぐことができます。このしくみに着目すれば、トレードオフの関係にあるストレス耐性と収量のバランスを最適化した作物の作出も可能になります。
本研究成果は、2022年10月14日午前4時(日本時間)付アメリカ科学誌「Science」に掲載されました。
・植物は、自然環境下における病害・温度・塩などのストレスに適応するために、成長に使うエネルギーの一部を状況に応じてストレス応答に回すしくみを持つ。そのため、ストレス応答が活性化すると、代償として成長は抑制される。
・本研究では、ストレス応答と成長の切り替えをコントロールするホルモンを新たに発見した。
・このホルモンのはたらきにより、ストレスによってダメージを受けた部位の周辺だけでストレス応答を活性化させ、植物体全体の成長への影響を最小限にとどめつつ、ダメージ部位の拡大を防いでいると考えられる。
・本成果に着目すれば、ストレス耐性と収量のバランスを最適化した作物の作出も可能となる。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
注1)ペプチドホルモン:
アミノ酸が十数個結合した小さいタンパク質のうち、細胞に対し微量で特定の生理作用を引き起こす活性をもつもの。
注2)ペプチドホルモン受容体:
細胞の表面に存在し、ペプチドホルモンの結合の有無に依存して、細胞内で特定の遺伝子群の発現を誘導するはたらきをもつ。通常は、ホルモンが結合すると遺伝子発現が誘導されるが、PSYRは逆で、ホルモンPSYが結合していない場合に遺伝子発現を誘導する。
雑誌名:Science
論文タイトル:Peptide ligand-mediated trade-off between plant growth and stress response
著者:Mari Ogawa-Ohnishi, Tomohide Yamashita, Mitsuru Kakita, Takuya Nakayama, Yuri Ohkubo, Yoko Hayashi, Yasuko Yamashita, Taizo Nomura, Saki Noda, Hidefumi Shinohara, Yoshikatsu Matsubayashi
DOI: 10.1126/science.abq5735