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農学

2022.10.18

昆虫随伴菌の樹木病原性を強化する昆虫共生菌の新たな役割を実証: ~共生菌と随伴菌の混合接種でイチジク苗木が早期萎凋・壊死材部拡大~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の姜 自如(ジャン ジル)研究員、梶村 恒 准教授らの研究グループは、広島県立総合技術研究所 農業技術センター、国立大学法人神戸大学大学院農学研究科、国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所との共同研究で、イチジク樹に穿孔するアイノキクイムシ(養菌性キクイムシ注1)の一種)の共生菌が、キクイムシの随伴する樹木病原菌との相乗作用でイチジク苗木の衰弱・枯死を促進することを実証しました。
イチジク株枯病菌(セラトシスティス属の一種)は、土壌経由で感染しますが、アイノキクイムシがイチジクの幹や枝に穿孔する際にも侵入しています。その雌成虫が、株枯病菌を腹部上翅の表面に付着させ、随伴しているのです。これまでに、同研究グループは、野生と飼育したアイノキクイムシの雌成虫を調べ、大顎付近に菌嚢注2)が存在し、それを含む頭部から糸状菌のフザリウム・クロシウムとネオコスモスポラ・メタヴォランスがそれぞれ高頻度に検出されることを報告しました。本研究では、野外における共生菌(フザリウム・クロシウム)と株枯病菌の病原性を確認するために、イチジク苗木に接種試験を行いました。その結果、フザリウム・クロシウム自体の病原性は無かったものの、株枯病菌との組み合わせで、株枯病菌単独よりも苗木が早く萎凋(通水停止)し、壊死した材部の面積が広くなりました。したがって、フザリウム・クロシウムが株枯病菌に加担してイチジク樹を枯死させていることが示唆されます。これらの菌類とアイノキクイムシの関係の“歴史”も推察しました。
本研究成果は、2022年9月27日付の国際科学雑誌「Microorganisms」にオンライン掲載されました。
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業の基盤研究(B)(17H03831, 19H02994, 20H03026)、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))(18KK0180)の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・イチジク株枯病菌(セラトシスティス属の一種)は、イチジクの樹を枯死させる。本菌の感染経路として、土壌経由およびアイノキクイムシによる媒介が知られている。
・アイノキクイムシ(ユーワラセア・インタージェクツス)は、元来は森林に生息していたが、果樹園のイチジク樹に穿孔して繁殖するようになった害虫である。
・本種は養菌性キクイムシで、雌成虫の頭部の大顎付近に菌嚢を備えている。イチジクの枯死枝から採集した野生個体と人工飼料で累代飼育した個体では、頭部から糸状菌のフザリウム・クロシウムとネオコスモスポラ・メタヴォランスがそれぞれ高頻度に検出された。
・菌嚢にある共生菌は、養菌性キクイムシの食物であるが、一部で宿主樹木に病原性を示すものがある。
・本研究では、野外における共生菌(フザリウム・クロシウム)と株枯病菌の病原性を確認するために、イチジクの苗木に接種試験を行った。
・その結果、フザリウム・クロシウム自体の病原性は無かったものの、株枯病菌との組み合わせで、株枯病菌単独よりも苗木が早く萎凋(通水停止)し、壊死した材部の面積が広くなった。
・フザリウム・クロシウムと株枯病菌の相乗作用の発見に基づいて、株枯病菌とアイノキクイムシの出会いから、フザリウム・クロシウムを含めた3者系の共生システムへの変化を提案し、それがイチジク株枯病を蔓延させた可能性を示唆した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)養菌性キクイムシ:
ゾウムシ科のキクイムシ亜科とナガキクイムシ亜科に属する甲虫のうち、菌類を栽培して食物とする習性を持つグループを指す。樹体内に坑道(トンネル)を掘り、その内壁に下記の菌嚢から共生菌を接種する。一部の種は、共生菌あるいは随伴菌に植物病原菌が含まれ、生立木を衰弱・枯死させる害虫となっている。

 

注2)菌嚢:
昆虫が体内に菌類を貯蔵し、運搬する特別の器官を指す。嚢とは、袋という意味である。キクイムシの場合は、口の中、胸部の背面や側面、上翅の基部、脚の付け根など、その位置や形状が著しく多様化している。

 

【論文情報】

雑誌名:Microorganisms
論文タイトル:The Role of Mycangial Fungi Associated with Ambrosia Beetles (Euwallacea interjectus) in Fig Wilt Disease: Dual Inoculation of Fusarium kuroshium and Ceratocystis ficicola Can Bring Fig Saplings to Early Symptom Development
著者:Zi-Ru Jiang (姜 自如:名古屋大学大学院生命農学研究科 研究員)、Takeshige Morita (森田 剛成:広島県立総合技術研究所 農業技術センター 果樹研究部 主任研究員)、Shota Jikumaru (軸丸 祥大:広島県立総合技術研究所 農業技術センター 果樹研究部 総括研究員)、Keiko Kuroda (黒田 慶子:神戸大学大学院農学研究科 名誉教授)、Hayato   Masuya (升屋 勇人:森林総合研究所きのこ・森林微生物研究領域 室長))、Hisashi Kajimura (梶村 恒:名古屋大学大学院生命農学研究科 准教授) ※本学関係教員は下線
DOI:10.3390/microorganisms10101912
URL: https://www.mdpi.com/2076-2607/10/10/1912

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 梶村 恒 准教授
https://forest-protection-nu.jimdofree.com/