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複合領域

2022.10.24

台風の目に向かって飛ぶオオミズナギドリ

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院環境学研究科の依田 憲 教授と大学院工学研究科の竹内 一郎 教授らの研究グループは、オオミズナギドリ注1)に小型のGPSロガー注2)を装着することで、台風注3)に対するオオミズナギドリの海上での対応を調べました。その結果、オオミズナギドリが台風の目に向かって飛ぶことを発見し、この戦術によって陸地に飛ばされる危険性を低減していることが明らかになりました。さらに、風の強さや、台風や陸地との位置関係によっても台風への対応を変えることが分かりました
今後は、本研究によって明らかになった鳥類の能力の裏に潜む感覚・運動能力についての研究が進むことが期待されます。また、地球温暖化等の気候変動により台風の発生数や強度にも影響がある可能性が指摘されています。本研究は10年以上に渡る野外調査の成果ですが、さらに継続することで、気候変動に対する鳥類の行動的対応が明らかになるかもしれません。
本研究成果は、2022年10月4日付アメリカ学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)」に掲載されました。
本研究は、文部科学省「学術変革領域(A)階層的生物ナビ学」などの科学研究費助成事業の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・台風に対する野生動物の行動的な対応については、ほとんど分かっていない。特に、台風の影響を受けると思われる海洋動物についてはデータがほとんどない。
・10年以上に渡って毎夏、小型のGPSロガーをオオミズナギドリに装着することにより、台風シーズンの移動情報を収集した。
・オオミズナギドリが台風の目に向かって飛ぶことが判明した。また、この戦術により、陸上に飛ばされるリスクを低減している可能性が示された。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)オオミズナギドリ(Calonectris leucomelas):
日本や韓国などの島々で春から秋にかけて繁殖する、体重600gほどの海鳥(海鳥とは、主な採餌場所が海洋である鳥類のグループ。約9000種の鳥類のうち350種ほどが海鳥)。翼開長(翼を広げたときの翼端間の長さ)120cm。数m潜水してカタクチイワシなどを食べる。繁殖期は、土に掘った巣穴で雛1羽を両親で育てる。粟島の親鳥の場合、1回につき1-17日間の採餌旅行を行い、胃に魚を入れて雛に持ち帰る。粟島から津軽海峡を抜け、北海道最東端の沿岸で採餌することもある。親も雛も11月に繁殖地を離れ、非繁殖期はニューギニアやフィリピンの沿岸で過ごす。野生化したネコによって個体数を減らしている島もあり、繁殖・生態・行動・保全の研究が急務である。

 

注2)GPSロガー:
GPSとは、上空の衛星からの信号を受け取って位置を知る、全地球測位システムのこと。カーナビやスマホに搭載されている。野生動物に対しては、GPSモジュールや電池、メモリなどを組み合わせ、小型化・耐水化して用いる。こうした手法は、バイオロギングと呼ばれている。

 

注3)台風:
北西太平洋と南シナ海で最大風速がおよそ秒速17m以上の熱帯低気圧。北西太平洋は地球上で一番多く熱帯低気圧が発生する地域である。別の地域では、ハリケーンやサイクロンと呼ばれる。台風と呼ばれるようになったのは明治時代からで、野分と呼ばれていた頃からオオミズナギドリは台風の目に向かっていたかもしれない。

 

【論文情報】

雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)
論文タイトル:“Pelagic seabirds reduce risk by flying into the eye of the storm”
著者:Emmanouil Lempidakis(スワンジ大), Emily L. C. Shepard(スワンジ大), Andrew N. Ross(リーズ大), Sakiko Matsumoto(名大), Shiho Koyama(名大), Ichiro Takeuchi(名大), K. Yoda(名大)※本学関係教員は下線
DOI: 10.1073/pnas.2212925119
URL: https://www.pnas.org/doi/abs/10.1073/pnas.2212925119

 

【研究代表者】

大学院環境学研究科 依田 憲 教授
http://yoda-ken.sakura.ne.jp