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数物系科学

2022.10.25

月クレータ斜面地形が今も活発に変化している仕組みを解明

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院環境学研究科の池田 あやめ 博士後期課程学生と熊谷 博之 教授は、東京大学大学院理学系研究科の諸田 智克 准教授との共同研究により、LROによって月の岩塊崩れ、小クレータ、斜度、新鮮領域の分布と小クレータ形成時の震動の大きさの推定を行い、岩塊崩れの成因を調べました
先行研究では、断層で発生する浅発月震によって岩塊崩れが発生すると結論付けられ、斜面上の小クレータ形成時の震動による影響はこれまで定量的に評価されていませんでした。
本研究では、小クレータ形成時の加速度と岩塊が崩れ始めた地点に相関が見られたことから、小クレータ周辺で局所的に大きな加速度がかかり、岩塊崩れが発生した可能性を指摘しました。また、岩塊崩れのあるクレータの位置とアポロ探査で推定された月震の震央距離を比較すると、両者に相関は得られず、月震のみによって岩塊崩れを引き起こすのは難しいことを指摘しました。これらの結果から、岩塊崩れの成因が衝上断層での月震ではなく、小クレータ形成時の局所的な震動によるものであることが強く示唆されると結論づけました。これらの結果を基に、クレータ斜面上方で岩塊が生成され、天体衝突時の震動で崩れることを繰り返し、斜面が緩和するモデルを提案しました。
本研究成果は、2022年10月4日付アメリカ地球物理学連合の雑誌「Journal of Geophysical Research: Planets」に掲載されました。

 

【ポイント】

・NASAの月周回衛星Lunar Reconnaissance Orbiter(以下「LRO」)注1)と日本の月周回衛星「かぐや注2)」のデータを用いて、月の岩塊崩れ、斜度、新鮮領域注3)の分布を調べ、小クレータ形成時の斜面の加速度分布を推定した。
・岩塊崩れの成因が衝上断層での月震ではなく、小クレータ形成時の局所的な震動によるものであることが強く示唆され、現在も月面のクレータ斜面地形は活発に変化しているものと考えられる。
・天体衝突によって、斜面上方で岩塊が生成され、衝突時の震動で岩塊が崩れることを繰り返すことで、斜面が緩和するモデルを提案した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)Lunar Reconnaissance Orbiter:
2009年に打ち上げられ、現在も運用中のNASAの月周回衛星。高解像度のカメラの他、レーザー高度計や熱放射温度計などを搭載している。

 

注2)かぐや:
JAXAが2007年?2009年まで運用していた月周回衛星。岩石組成の観測や重力場観測を全球で行った。

 

注3)新鮮領域:
宇宙風化とよばれる現象によって反射率が全体に下がり、1000 nm 付近の吸収が弱くなるなどの、天体表面の光学特性が変化する特徴を用いて定式化した指標。大きい値ほど新鮮であることを示す。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of Geophysical Research: Planets
論文タイトル:Topographic degradation processes of lunar crater walls inferred from boulder falls
著者:
池田 あやめ  名古屋大学大学院環境学研究科   博士後期課程2年
熊谷 博之   名古屋大学大学院環境学研究科   教授
諸田 智克   東京大学大学院理学系研究科    准教授
※本学関係者は下線
DOI: http://doi.org/10.1029/2021JE007176
URL: https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2021JE007176

 

【研究代表者】

大学院環境学研究科 熊谷 博之 教授
https://www.eps.nagoya-u.ac.jp/~kumagai/