TOP   >   医歯薬学   >   記事詳細

医歯薬学

2022.10.28

硫化水素を標的としたリンパ管新生療法 〜根本治療のない二次性リンパ浮腫治療への期待〜

名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学の鈴木淳也(すずき じゅんや)大学院生、清水優樹(しみず ゆうき)助教、室原豊明(むろはら とよあき)教授らの研究グループは『硫化水素がリンパ管新生を促し、リンパ浮腫に対する治療法となる可能性』について調査、検証を行いました。
二次性リンパ浮腫※1 とは、がん治療におけるリンパ節郭清、放射線療法などによりリンパ管システムの機能不全が引き起こされ四肢が腫れあがる疾患です。見た目の問題だけでなく、四肢の機能障害、繰り返す疼痛や炎症などを引き起こし著しい QOL(Quality of Life)の低下を引き起こす疾患です。また今後もがん治療の進歩によりがん患者の生命予後が改善する事でリンパ浮腫の患者が増えてくる事も予想されています。しかし現在のリンパ浮腫に対する治療は弾性ストッキングによる圧迫や運動、スキンケアなどの理学的な対症療法が中心で、根本的な治療が難しいのが現状です。そこで本研究で注目されたのが硫化水素によるリンパ管新生療法です。硫化水素は腐卵臭(卵が腐ったようなにおい)を伴う気体ですが、体内にも微量に存在しガス情報伝達物質として抗酸化作用や免疫調節、代謝、血管新生や血管拡張などに広く関わっている事が知られています。同グループはDATS※2 というニンニクの匂い成分に多く含まれ、体内に取り込まれると、硫化水素を発生する物質を投与することにより、リンパ浮腫組織において、リンパ管新生を促進させ、浮腫を軽減させる事を発見しました。このことで将来的に、難治性である二次性リンパ管浮腫に対する有用な治療方法となる可能性が示されました。
本研究結果は米国科学誌である「Journal of the American Heart Association」(2022 年 10 月 26 日付オンライン版)に掲載されました。

 

【ポイント】

○二次性リンパ浮腫はがん治療の進歩によりさらに増えてくる事が予想され、著しい QOL の低下を引き起こす疾患である。しかし現在は理学的な対症療法が中心で根本的な治療が難しい疾患である。
○本研究ではニンニク匂い成分に多く含まれ、体内にて硫化水素を発生させる DATS を投与する事で体内の硫化水素濃度を上昇させ、リンパ管新生を促し、二次性リンパ浮腫を軽減させることを発見した。
○今後硫化水素によるリンパ管新生療法が確立され、二次性リンパ浮腫患者を救う根本的治療となる事が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 二次性リンパ浮腫;
人間の全身にはリンパ管という管が張り巡らされており、その中をリンパ液が循環することで免疫反応などに関わっている。がん治療における手術や放射線治療によりリンパ管が閉塞・途絶すると、リンパ液の循環が滞り、末梢の手足が腫れあがってしまう状態を二次性リンパ浮腫という。二次性というのは、手術などで後天的に障害を受けて発生したという意味である。
※2 DATS;
ジアリルトリスルフィド(Diallyl Trisulfide)の略。三硫化アリル。ニンニクに多く含まれる成分で、生体内において硫化水素を発生させるドナー(供与体)となる。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Journal of the American Heart Association
論文タイトル:Hydrogen sulfide attenuates lymphedema via the induction of lymphangiogenesis through a PI3K/Akt-dependent mechanism
著者:
Junya Suzuki1; Yuuki Shimizu1; Takumi Hayashi1; Yiyang Che1; Zhongyue Pu1; Kazuhito Tsuzuki1; Shingo Narita1; Rei SHIbata2; Isao Ishii3; John Calvert4; Toyoaki Murohara1;
所属:
1Department of Cardiology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2Department of Advanced Cardiovascular Therapeutics, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
3Laboratory of Health Chemistry, Showa Pharmaceutical University, Machida, Tokyo, Japan
4Department of Surgery, Division of Cardiothoracic Surgery, Carlyle Fraser Heart Center, Emory University School of Medicine, Atlanta, GA
DOI:10.1161/JAHA.122.026889

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Jou_221028en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 室原 豊明 教授
https://www.med-nagoya-junnai.jp/