生物学
2022.10.28
クサフグが大潮に一斉集団産卵する仕組みを解明 月の満ち欠けによってもたらされる生物リズムの謎に迫る
サンゴやウミガメの一斉産卵や、ヒトの月経周期や双極性障害など、動物の様々な営みは月の満ち欠けの影響を受けていますが、その仕組みは謎に包まれていました。
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM※)及び大学院生命農学研究科のチェン ジュンファン 特任助教、片田 祐真 博士後期課程学生、沖村 光祐 博士、山口 大輝 博士前期課程学生、吉村 崇 教授らの研究グループは、トヨタ紡織株式会社、新潟大学らと共同で、大潮の際に波打ち際で一斉に集団産卵するクサフグにエコゲノミクス注1)のアプローチを適用することで、大潮に産卵活動を促す遺伝子を明らかにしました。さらに、ケミカルバイオロジー注2)のアプローチから、産卵時に海水中に放出されるプロスタグランジンE2注3)がフェロモン注4)として働き、周囲のクサフグの一斉集団産卵を誘発することを発見しました。
本研究成果は、2022年10月28日午前1時(日本時間)にアメリカ科学雑誌「カレントバイオロジー」のオンライン版に掲載されました。
・新月、満月の大潮の日に、クサフグは数千匹が海岸に集まって一斉に集団産卵するが、その仕組みは謎に包まれていた。
・ゲノム情報を駆使した解析から大潮で活性化し、産卵を促す大潮遺伝子を発見した。
・精密分析化学的手法を用いることで、産卵時に海水中に放出されたプロスタグランジンE2がフェロモンとして働き、周囲のクサフグの一斉集団産卵を誘発することがわかった。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
注1)エコゲノミクス:
生態学的に興味深い現象を、ゲノム情報を駆使して明らかにする研究手法。
注2)ケミカルバイオロジー:
化学的手法を駆使して生命現象を解明する研究手法。
注3)プロスタグランジンE2:
不飽和脂肪酸のアラキドン酸からつくられる生理活性物質で、分娩の他、発熱、疼痛、血管拡張など、体のなかで様々な働きが知られている。
注4)フェロモン:
体の中で作られて体外に分泌されると、同種の他個体の行動や生理機能に特有の反応を引き起こす物質のこと。
雑誌名:Current Biology オンライン版
論文タイトル:Prostaglandin E2 synchronizes lunar-regulated beach-spawning in grass puffers(プロスタグランジンE2は月によって制御される一斉集団産卵を同期させる)
著者:Junfeng Chen, Yuma Katada, Kousuke Okimura, Taiki Yamaguchi, Ying-Jey Guh, Tomoya Nakayama, Michiyo Maruyama, Yuko Furukawa, Yusuke Nakane, Naoyuki Yamamoto, Yoshikatsu Sato, Hironori Ando, Asako Sugimura, Kazufumi Tabata, Ayato Sato, and Takashi Yoshimura(陳 君鳳、片田 祐真、沖村 光祐、山口 大輝、顧 穎傑、中山 友哉、丸山 迪代、古川 祐子、中根 右介、山本 直之、佐藤 良勝、安東 宏徳、杉村 麻子、田畑 和文、佐藤 綾人、吉村 崇)(下線は本学関係者)
DOI: 10.1016/j.cub.2022.09.062
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982222016049?via%3Dihub
※【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究を行うミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発を行い、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。
トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM) 吉村 崇 教授
http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~aphysiol/