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化学

2022.11.02

近赤外領域で狭帯蛍光を示す安定なカチオン性分子を開発 ~アズレンによる新たな安定化および機能化法を確立~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の村井 征史 准教授とトランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM*)の山口 茂弘 教授らの研究グループは、新たな分子骨格を用いて凝集することで近赤外領域に狭い蛍光帯を示す、高度に安定化されたカチオン性分子の開発に成功しました
800 nmを超える近赤外領域で発光する有機分子の開発は、ヘルスケア用途に応用可能なオプトエレクトロニクス材料注5)や、生命科学研究の基盤技術の蛍光イメージングの進展において強く求められています。しかし、そのような特性をもつ分子の報告例は限られており、新たな分子骨格の設計法の確立が必要とされてきました。
本研究では、非ベンゼンノイド芳香族のアズレンの導入と、分子骨格の平面固定化により、高い化学安定性をもつカチオン性分子を作ることに成功しました。さらに、この分子が、溶液中で凝集すると近赤外領域に極度に狭い蛍光帯を示すことを見出しました。今回の分子設計法は、多彩なカチオン性近赤外発光材料の創出に繋がると期待されます。
本研究成果は、2022年10月28日付アメリカ化学雑誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

・近赤外領域注1)で蛍光を示す分子の開発には、新たな分子骨格の設計法が必要である。
・非ベンゼノイド芳香族注2)のアズレン注3)の組み込みと、ケイ素原子による分子骨格の平面固定化により、カチオン注4)性π共役分子の高度な安定化を実現した。
・得られたカチオン性分子が凝集することで、近赤外領域にシャープな吸収および蛍光が発現することを実証した。

 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1) 近赤外領域:
可視光より長波長の電磁波の中で、波数12500~4000 cm-1(波長800~2500 nm)の光。

 

注2) 非ベンゼノイド芳香族:
ベンゼン環をもたない環状分子の中で、芳香族性をもつものの総称。

 

注3) アズレン:
7員環と5員環が縮環した構造をもつ分子。濃青色を呈する分子であり、生理活性をもつなど、構造異性体にあたる2つの6員環が縮環したナフタレンとは大きく異なる性質をもっている。

 
注4) カチオン:
正電荷をもつ化学種。この内、炭素原子上に正電荷をもつ化学種を特にカルボカチオンとよぶ。

 
注5)オプトエレクトロニクス材料:
物質がもつ光学的な特性が応用された電子機器の総称。光通信やレーザーを応用した計測・加工・医療をはじめ、産学の多岐に渡る分野で広く応用されている。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of the American Chemical Society オンライン版
論文タイトル:Diazulenylmethyl Cations with a Silicon Bridge: A π-Extended Cationic Motif to Form J-Aggregates with Near-Infrared Absorption and Emission
(ケイ素架橋ジアズレニルメチルカチオン: 近赤外吸収および蛍光特性を示すJ会合体を形成する新しいπ拡張カチオン)
著者: Masahito Murai, Mikiya Abe, Soichiro Ogi, Shigehiro Yamaguchi
村井 征史阿部 幹弥大城 宗一郎山口 茂弘、下線は本学関係者)
DOI: doi.org/10.1021/jacs.2c08372
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.2c08372

 

※【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究を行うミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発を行い、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。

 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM) 山口 茂弘 教授
https://orgreact.chem.nagoya-u.ac.jp