TOP   >   農学   >   記事詳細

農学

2023.01.06

葉肉組織、横から見るか? 縦から見るか? ~複雑な細胞形状をもつイネ葉構造の解析法を3D観察法で検証~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科のオウク・ラチャナ博士、大井 崇生 助教、杉浦 大輔 講師、谷口 光隆 教授による研究グループは、試料を一定間隔で切断して観察する連続切片法を用いて、イネの葉身の内部構造を三次元再構築して可視化し、3Dデータ解析を行うことで、光合成能力に深く関わる“細胞間隙に面する葉肉細胞や葉緑体の表面積”を精確に算出することに成功しました。
植物の光合成におけるガス交換能力を左右する一因に、葉組織内で空気の流れる細胞間隙に面した葉肉細胞や葉緑体の表面積の大きさが挙げられますが、その測定には、組織を薄く切断して撮影した二次元の平面像から推定する手法が用いられてきました。しかし、イネの葉組織は、維管束に対して横断方向では、海綿状に複雑にくびれた葉肉細胞の断面が見られ、縦断方向では、柵状に整列した葉肉細胞の断面が見られる特徴があり、どちらの断面を用いて、どのように表面積を推定すべきか、これまで明確な指標はありませんでした。
本研究では、イネの葉身の内部構造を連続切片-光学顕微鏡法で三次元再構築し、葉肉細胞や葉緑体の体積、細胞間隙に面する表面積を直接計測するとともに、得られた3Dデータから葉組織の横断面や縦断面を作成し、従来法による推定値と比較して実測値との差が小さくなる条件を明らかにしました。これにより、迅速な推定方法の精度が向上し、作物の光合成能力を高める研究に役立つと期待されます。
本研究成果は、2022年12月22日付国際学術雑誌「Annals of Botany」に掲載されました。

 

【ポイント】

・主要作物であるイネの葉内組織構造を連続切片-光学顕微鏡法注1)で三次元再構築注2)することにより、葉緑体注3)が識別できる精度の3D観察を可能にした。
・取得した空間データを解析し、光合成のガス交換効率に関わる細胞間隙注4)に面する葉肉細胞注5)や葉緑体の表面積を実測することに成功した。
・空間データから横断・縦断の断面像を抽出し、二次元断面から各種表面積を算出する従来法の推定値と3D実測値を比較し、イネにおける適切な条件を提唱した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)連続切片-光学顕微鏡法:
試料を一定間隔で薄く切り、スライドガラス上に連続して並べた切片を順々に光学顕微鏡で撮影する手法。連続画像を切削した厚さで積み上げて三次元再構築できる。

 

注2)三次元再構築:
連続した断面像として撮影された二次元の平面像から三次元の立体像を得る手法。

 

注3)葉緑体:
植物細胞にある細胞内小器官(オルガネラ)の1つで、光エネルギーを吸収する色素を蓄えた層状の膜構造を含み、二酸化炭素と水から糖と酸素を合成する光合成を行う。

 

注4)細胞間隙:
細胞と細胞の間に生じた空隙。陸上植物の葉内では、気孔を介して外気と繋がっており、光合成で消費される二酸化炭素や排出される酸素などの通り道となっている。

 

注5)葉肉細胞:
葉における柔組織を構成する細胞で、葉緑体を多く含み光合成の主要な場となる。

 
【論文情報】

雑誌名: Annals of Botany
論文題目:3-D reconstruction of rice leaf tissue for proper estimation of surface area of mesophyll cells and chloroplasts facing intercellular airspaces from 2-D section images
著者:Rachana Ouk, Takao Oi, Daisuke Sugiura, Mitsutaka Taniguchi (本学教員)
DOI:10.1093/aob/mcac133
URL:https://doi.org/10.1093/aob/mcac133

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 大井 崇生 助教
https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~shigen/index.html