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医歯薬学

2023.01.05

体内時計中枢における細胞内 cAMP の機能を解明

国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学環境医学研究所の小野大輔講師らの研究グループは、体内時計中枢における細胞内 cAMP 注 1 は神経ネットワークにより調節され、さらに 24 時間の生体リズムを制御していることを明らかにしました。
私たちは光や時刻の情報がない環境であっても、およそ 24 時間ごとに睡眠・覚醒を繰り返します。これは私たちの生体内に体内時計が存在するためです。体内時計はすべての細胞に存在し、その中枢が脳内の視交叉上核注 2 に存在することが分かっています。そしてこの生体リズムは時計遺伝子群の転写・翻訳によるメカニズムにより調節されていることが示唆されています。また、細胞内の cAMP は様々な細胞機能の調節に関わる極めて重要な分子であることが分かっていますが、cAMP と生体リズムとの関連性についてはあまり理解が進んでいませんでした。本研究では、細胞内 cAMP と細胞外ペプチドを可視化する新しい光計測プローブ注 3 を開発し、視交叉上核の cAMP、ペプチド分泌リズムイメージングに世界で初めて成功しました。さらに、この cAMP の生体リズムは、神経ペプチドを介した神経ネットワークによって生み出されていること、そしてこのネットワークによって生み出された cAMP が細胞内の分子時計を調節していることを明らかにしました。
これまで、生体リズムは時計遺伝子による転写・翻訳を介したメカニズムにより調節されていると考えられてきました。本研究成果は、細胞間のネットワークが生体リズム形成にも大きな役割があることを示した重要な知見と言えます。
本研究結果は、生体リズムを作り出す新たなメカニズムに解明に大きな可能性を示します。本研究成果は、2023 年 1 月 4 日付「Science Advances」でオンライン公開されました(日本時間 1 月 5 日午前 4 時)。

 

【ポイント】

○ 細胞内 cAMP、細胞外ペプチド分泌を可視化する新たな光イメージングプローブを開発した
○ 体内時計中枢の視交叉上核に cAMP リズムは、神経ネットワークにより生み出される
○ 細胞間ネットワークにより生じた cAMP リズムは、細胞内の分子時計を調節する
○ 細胞間ネットワークにより生じた cAMP リズムは、自発行動リズムを調節する

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

(1)cAMP:Cyclic adenosine monophosphate の略。細胞内のシグナル伝達を担う分子。
(2)視交叉上核:視神経が交叉する視交叉の上に位置する神経細胞の集合。哺乳類における概日時計の中枢。
(3)光計測プローブ:生体内で生じる分子変動等を光で計測可能なタンパク質

 

【論文情報】

掲雑誌名:Science Advances
論文タイトル : Network-driven intracellular cAMP coordinates circadian rhythm in the suprachiasmatic nucleus
著者・所属:
Daisuke Ono1,2, Huan Wang6, Chi Jung Hung1,2, Hsin-tzu Wang3,4,5, Naohiro Kon3,4, Akihiro Yamanaka6, Yulong Li7, and Takashi Sugiyama8
1. Department of Neuroscience II, Research Institute of Environmental Medicine, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8601, Japan
2. Department of Neural Regulation, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya 466-8550, Japan
3. Institute of Transformative Bio-Molecules (WPI-ITbM), Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8601, Japan
4. Laboratory of Animal Integrative Physiology, Graduate School of Bioagricultural Sciences, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8601, Japan
5. Department of Biological Sciences, School of Science, The University of Tokyo, Hongo 7-3-1, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japan
6. Chinese Institute for Brain Research (CIBR), Beijing, 102206, China
7. State Key Laboratory of Membrane Biology, Peking University School of Life Sciences, Beijing, China
8. Advanced Optics & Biological Engineering, Evident Corporation, Tokyo, Japan

 

DOI:http://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abq7032

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Sci_230105en.pdf

 

【研究代表者】

環境医学研究所 小野 大輔 講師
https://daiono14.wixsite.com/circadianrhythm