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医歯薬学

2023.01.17

限局型の病巣を形成する IDH 野生型びまん性星細胞腫の分子生物学的特徴の発見!

名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科学(齋藤竜太教授)の本村和也(もとむらかずや)准教授と木部祐士(きべゆうじ)大学院生(筆頭著者)の研究グループは、稀な腫瘍である画像上限局型※1 の病巣を形成する IDH※2 野生型組織学的びまん性星細胞種の臨床的および分子生物学的特徴について報告しました。
IDH 野生型の神経膠腫は組織学的に低悪性度腫瘍(びまん性星細胞種)の所見であっても膠芽腫と同様に IDH 変異型のびまん性星細胞腫と比較して予後不良とされています。このような IDH 野生型びまん性星細胞種は脳の広範囲に浸潤するタイプが多く、限局型の病巣を形成することは稀であり、そのような腫瘍の臨床的経過・分子生物学的特徴は明らかになっていません。
本研究では画像上限局型の病巣を形成した IDH 野生型組織学的びまん性神経膠腫 5 例の臨床経過・分子生物学的特徴をまとめて報告しました。症例は全て女性で、平均発症年齢は 55.4 歳、発生部位は前頭葉 2 例、島回 3 例でした。初回手術の病理組織学的診断は全てびまん性星細胞腫(grade
II)でした。後療法は行わず経過観察をしたところ、わずか平均 12.4 カ月(5.8-28.7 カ月)で再発を認めました。再発時の病理は 4 例が膠芽腫(grade IV)で 1 例が膠肉腫(grade IV)で、全例摘出腔内に限局した造影病変での再発でした。全例再摘出術を施行し、放射線化学療法(Stupp regimen)を施行しました。初回手術検体の遺伝子解析を行い、5 例全例IDH1,2 が野生型であることが確認されました。そのうち 4 例で膠芽腫に特徴的なTERT プロモーター※3 の変異を認めました。残りの 1 例でCDKN2A homozygous deletion※4 を認め、再発までの期間は 5.8 カ月と最も短期間でした。これらのことから、限局した病変で病理所見上の特徴は低悪性度神経膠腫と酷似していても、IDH 野生型びまん性星細胞種は非常に予後不良であり、分子生物学的解析による診断が重要であると考えられます。
本研究成果は 2023 年 1 月 16 日付(日本時間 2023 年 1 月 16 日 19 時)『Scientific Reports』オンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

○ IDH 野生型びまん性星細胞腫は IDH 変異型びまん性星細胞腫と比較して予後不良とされていますが、その希少性のため詳細な病態・予後は明らかとなっていません。
○ IDH 野生型びまん性星細胞種は脳の広範囲に浸潤するタイプが多いとされていますが、今回 5 例の限局型の病巣を形成した IDH 野生型びまん性星細胞腫について臨床的特徴、分子生物学的特徴を報告しました。
○ 限局型の IDH 野生型びまん性星細胞腫は全摘出後も最短で約 6 ヶ月後に膠芽腫として再発し、予後不良でした。
○ いずれの症例も画像所見・病理組織学的所見は低悪性度星細胞腫と酷似していますが、5 例中 4 例は分子生物学的な膠芽腫の特徴を有しており、分子生物学的解析による診断が重要と考えられました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 限局型:腫瘍が画像の上でびまん性に脳内を浸潤しているのではなく、腫瘍境界が明瞭で局所にとどまっていること。
※2 IDH:イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(isocitrate dehydrogenase)の略でクエン酸回路の第 3 段階でイソクエン酸をα-ケトグルタル酸に変換する酵素です。低悪性度の神経膠腫では IDH変異が頻繁に認められ、WHO2021 分類では成人神経膠腫を IDH 変異型腫瘍と IDH 野生型腫瘍に分類することになりました。
※3 TERT プロモーター:TERT はテロメア伸長に関わるテロメラーゼ逆転写酵素(Telomerase reverse transcriptase)で、膠芽腫の分子生物学的特徴の一つにこの遺伝子のプロモーター領域の変異が知られています。
※4 CDKN2A/B homozygous deletion:細胞周期の制御に関わるCDKN2A/B はがん抑制遺伝子として知られていますが、低悪性度神経膠腫や膠芽腫でこの遺伝子のホモ接合性欠失がしばしば認められ、予後不良因子とされています。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Imaging features of localized IDH wild-type histologically diffuse astrocytomas: a single-institution case series
著者・所属:
木部祐士、本村和也、大岡史治、青木恒介、清水浩之、山口純矢、西川知秀、齋藤竜太
名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科学

 

DOI : 10.1038/s41598-022-25928-2

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Sci_230116en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 本村 和也 准教授
https://med-nagoya-neurosurgery.jp/