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数物系科学

2023.01.18

宇宙最大の爆発現象「ガンマ線バースト」の爆発エネルギーは従来予測の4倍以上と判明 世界初の電波・可視光同時偏光観測から隠れた爆発エネルギーを測定

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の霜田 治朗 特別研究員(PD)と名古屋大学宇宙地球環境研究所の山岡和貴特任准教授は、台湾・国立中央大学/MITOS Science CO., LTD.の浦田裕次氏、東北大学学際科学フロンティア研究所(兼務 大学院理学研究科)の當真賢二准教授、同大学大学院理学研究科の桑田明日香氏(博士後期課程1年生)らを中心とした国際研究チームと共に、アルマ望遠鏡とヨーロッパ南天天文台・超大型望遠鏡を使い、宇宙最大の爆発現象である「ガンマ線バースト」の電波と可視光における偏光の同時観測を世界で初めて成功させました。それにより、偏光を使わなければ見えない隠れたエネルギーを含めたガンマ線バーストの本当の爆発エネルギーを推定し、これまでの推定の4倍以上となることがわかりました。この結果により、典型的なロングガンマ線バーストの起源となる星の重さや爆発の理論が修正を迫られる可能性があります。宇宙で最初に誕生した星は、それが引き起こすガンマ線バーストの観測によって探すことができます。その星の重さの測定は、宇宙の進化史の解明にもつながります。
この観測成果は、天文学専門誌『Nature Astronomy』に2022年12月8日付で掲載されました。

 

【ポイント】

* アルマ望遠鏡(チリ)*1とヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡(チリ)*2を使い、時々刻々と暗くなり観測が困難なガンマ線バースト*3の残光に対して、天文学観測の中でも特に難しい偏光測定を電波と可視光で同時に行うことに成功。
* 偏光を使わなければ見えない隠れたエネルギーを含めたガンマ線バーストの爆発エネルギーが、これまでの推定の4倍以上であることが判明。
* 爆発エネルギーのもとになるのは起源となる星の重さであり、今回の方法を使って宇宙で最初に誕生した星の重さの推定にもつながることが期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語解説】

*1 アルマ望遠鏡(チリ)
アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)は南米チリ共和国北部、標高5000メートルのアタカマ砂漠に建設された電波干渉計です。2011年に科学観測を開始し、日本を含む東アジア、北米、ヨーロッパ南天天文台の加盟国と建設地のチリを合わせた22の国と地域が協力して運用しています。人間の目には見えない波長数ミリメートルの「ミリ波」やそれより波長の短い「サブミリ波」の電波を観測します。 合計66台の電波アンテナを1つの望遠鏡に見立てて使う電波干渉計です。

 

*2 ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡(チリ)
ヨーロッパ南天天文台が南米チリ共和国・パラナル天文台(標高2635メートル)に建設した口径8.2メートルの4基の光赤外線望遠鏡の総称です。それぞれ1基ずつ独立に観測でき、ガンマ線バーストをはじめさまざまな観測を行っています。4基の望遠鏡を合わせて使うことで、光干渉計としても活用されます。日本のすばる望遠鏡と共に世界最大の光赤外線望遠鏡の1つです。すばる望遠鏡と違い南半球からでしか見えない宇宙を観測しています。

 

*3 ガンマ線バースト
1960年代の冷戦下に宇宙空間での核実験を監視する衛星によって発見された天体現象です。発見から40年ほどはどのような天体が発生源か全くわかりませんでしたが、 近年の研究によって宇宙最大の爆発現象であり、大きく2種類の天体現象を起源としていることが明らかになっています。全天をX線やガンマ線で常にモニター観測すると1日に1?2回も発生している天体現象です。現代の天文学では、いずれの現象も初期宇宙の探査やマルチメッセンジャー天文学を進める上で欠かせない天体現象となりました。

 

【論文情報】

タイトル:Simultaneous Radio and Optical Polarimetry of GRB 191221B Afterglow
著者:Yuji Urata, Kenji Toma, Stefano Covino, Klaas Wiersema, Kuiyun Huang, Jiro Shimoda, Asuka Kuwata, Sota Nagao, Keiichi Asada, Hiroshi Nagai, Satoko Takahashi, Chao-En Chung, Glen Petitpas, Kazutaka Yamaoka, Luca Izzo, Johan Fynbo, Antonio de Ugarte Postigo, Maryam Arabsalmani, Makoto Tashiro
掲載誌:Nature Astronomy
DOI:10.1038/s41550-022-01832-7
URL: https://www.nature.com/articles/s41550-022-01832-7

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 霜田 治朗 特別研究員(PD)
https://www.astro-th.phys.nagoya-u.ac.jp/talab/index_j.html