国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の山田 泰之 准教授、豊田 結香 研究員、田中 健太郎 教授らの研究グループは、同志社大学の人見 穣 教授、分子科学研究所の長坂 将成 助教、小板谷 貴典 助教、田中 清尚 准教授、高谷 光 准教授、九州大学の吉澤 一成 教授、辻 雄太 准教授、北海道大学の高草木 達 准教授、三輪(有賀)寛子 助教、東京都立大学の中谷 直輝 准教授、ブルカー・ジャパン株式会社の工藤 寿治 博士との共同研究で、天然のメタン酸化酵素に匹敵するメタン酸化触媒能を持つ人工分子触媒を新たに開発しました。
本研究では、二つの平面性分子が面と面とを向かい合わせて重なった構造を持つ二階建て型分子をグラファイト上に組織化するという方法により、温和な反応条件下の水溶液中において、極めて高効率に、メタンを有用有機分子へと変換できる触媒を開発しました。この触媒のメタン活性化能は、天然のメタン酸化酵素の一種であるpMMO注3)にも匹敵し、化学的に安定なメタンをも温和な条件の水溶液中で化学変換できることから、木質系廃棄物などのバイオマス、難分解性ポリマーや廃油など、環境汚染の原因となっている有機物や未利用の有機資源を、低環境負荷で有用有機物に分解・資源化する目的にも利用できる可能性があり、SDGsに貢献できるテクノロジーの一つとなると考えられます。
本研究成果は、2023年1月10日付アメリカ化学会「JACS Au」に掲載されました。
・グラファイト注1)との相互作用を利用して、触媒注2)分子のメタン酸化活性を飛躍的に高める方法を開発し、天然酵素に匹敵するメタン酸化触媒活性を達成した。
・自然界に豊富に存在する次世代資源であるメタンを、温和な反応条件で工業的に有用な有機小分子へと高効率に変換する方法を開発した。
・本触媒を用いれば、化学的に安定なメタンでも100°C以下の温和な反応条件の水溶液中で高効率に有用有機小分子へと変換でき、通常のメタン改質に必要な数百°Cの高温を必要としない。
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注1)グラファイト:
純粋な炭素原子が固まりとなった元素鉱物。炭素からなる平面状分子の層が積み重なった規則的な構造を持つ。
注2)触媒:
特定の化学反応を行う際に少量添加すると、それ自身は反応の前後で変化しないものの、その化学反応を促進する物質のこと。
注3)pMMO:
メタンを代謝して生育するメタン酸化細菌が持つメタン酸化酵素(MMO)の一種。不活性な炭化水素であるメタンを酸化して効率良くメタノールに変換することができる。
雑誌名:JACS Au
論文タイトル:Stacking of Cofacially Stacked Iron Phthalocyanine Dimer on Graphite Achieved High Catalytic CH4 Oxidation Activity Comparable to that of pMMO
著者:Yasuyuki Yamada(名大准教授), Kentaro Morita(名大元院生), Takuya Sugiura(名大元院生), Yuka Toyoda(名大研究員), Nozomi Mihara(名大元院生), Masanari Nagasaka(分子研助教), Hikaru Takaya(分子研客員准教授), Kiyohisa Tanaka(分子研准教授), Takanori Koitaya(分子研助教), Naoki Nakatani(東京都立大准教授), Hiroko Ariga-Miwa(北大助教), Satoru Takakusagi(北大准教授), Yutaka Hitomi(同志社大教授), Toshiji Kudo(ブルカー・ジャパン株式会社), Yuka Tsuji(九大准教授), Kazunari Yoshizawa(九大教授), Kentaro Tanaka(名大教授)
DOI: 10.1021/jacsau.2c00618
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacsau.2c00618
物質科学国際研究センター/大学院理学研究科 山田 泰之 准教授
https://supra.chem.nagoya-u.ac.jp