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医歯薬学

2023.01.11

中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)の治療効果を予測できる遺伝子異常の同定と遺伝子変異迅速解析システムの開発 ―PCNSL の分子診断と治療反応性の予測が 90 分以内で判定可能に―

名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科学の山口純矢 医員、大岡史治 講師、齋藤竜太 教授の研究グループは、85 症例の中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)*1 の遺伝子異常と予後の統合解析を行い、CD79BY 196 変異*2 は、PCNSL に対する R-MPV 療法*3 の良好な反応性の予測因子になることを同定いたしました。また、PCNSL で特異的、かつ高頻度にみられるMYD88 L265P 変異*4 を診断マーカーとして、MYD88 L265P 変異とCD79B Y196 変異を同時に、かつ迅速に解析するシステムを開発し、PCNSL の分子診断と治療反応性の予測を 90 分以内で判定することが可能となりました。
PCNSL は高齢者に好発する稀な悪性脳腫瘍のひとつですが、近年の高齢化に伴いその発生数は増加しています。化学療法の発達に伴い、PCNSL の予後は改善してきておりますが、その希少性からまとまった症例数での長期的な予後や予後因子に関したデータは十分ではありませんでした。そこで R-MPV 療法で治療を受けた 85 症例の PCNSL の遺伝子異常と予後の解析を行い、R-MPV 療法は従来の HD-MTX 療法*5 に比較して長期予後に優れ、またCD79B Y196 変異を持つ症例では、R-MPV 療法の感受性が良く、予後が良好であることがわかりました。このCD79B Y196 変異による予後改善効果は、HD-MTX 療法を受けた症例では観察されず、CD79B Y196 変異は R-MPV 療法の良好な反応性の予測因子であることがわかりました。さらに、MYD88 L265P 変異を診断マーカーとして、MYD88 L265P 変異とCD79B Y196 変異の同時迅速解析系を開発し、PCNSL の分子診断と治療反応性の予測を、少量の腫瘍検体から 90 分以内に判定することが可能になりました。
本研究で得られた成果により、PCNSL の迅速、かつ正確な分子診断、CD79B Y196 変異の有無を軸にした治療の層別化が期待されます。
本研究成果は「Cancer Medicine」(2022 年 12 月 7 日電子版)に掲載されました。

 

【ポイント】

○R-MPV 療法は、従来の HD-MTX 療法と比較して、良好な治療成績を得られることを示しました。
○PCNSL において、CD79B Y196 変異を持つ症例は、R-MPV 療法の反応性がよく、予後が良好であることを発見しました。
MYD88 L265P 変異とCD79B Y196 変異を同時に検出できる迅速解析装置を開発し、中枢神経系原発悪性リンパ腫の診断と治療反応性予測を効率的に、かつ迅速に行うことができる可能性を示しました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1 中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL):中枢神経系(脳、目、脊髄)に限局して発生するリンパ腫であり、全脳腫瘍の 5%ほどを占める稀な疾患です。
*2 CD79B Y196 変異:CD79B 遺伝子の点突然変異で、PCNSL では約 40%の症例で変異が陽性になります。その変異は B 細胞受容体シグナルの異常活性化を誘導し、PCNSL の発生への関与が報告されています。
*3 R-MPV 療法:抗がん剤であるリツキシマブ 、高容量メソトレキセート、プロカルバジン 、ビンクリスチンを併用した治療方法。
*4 MYD88 L265P 変異:MYD88 遺伝子の点突然変異で、PCNSL では約 70-80%の症例で変異が陽性になります。その変異は NF-κβ シグナルの異常活性化を誘導し、PCNSL の発生への関与が報告されています。
*5 HD-MTX 療法:抗がん剤であるメソトレキセート単剤を高容量で使用する治療方法

 

【論文情報】

掲雑誌名:Cancer Medicine
論文タイトル:
CD79B Y196 Mutation is a Potent Predictive Marker for Favorable Response to R-MPV in Primary Central Nervous System Lymphoma
著者:Junya Yamaguchi 1, Fumiharu Ohka1, Lushun Chalise2, Kazuya Motomura 1, Kosuke Aoki1, Kazuhito Takeuchi 1, Yuichi Nagata 1, Satoshi Ito 3, Nobuhiko Mizutani 3, Masasuke Ohno 4,5, Noriyuki Suzaki5, Syuntaro Takasu6, Yukio Seki 6, Takahisa Kano 7, Kenichi Wakabayashi 8, Hirofumi Oyama 8, Shingo Kurahashi9, Kuniaki Tanahashi 1, Masaki Hirano 1, Hiroyuki Shimizu 1, Yotaro Kitano 1, Sachi Maeda1, Shintaro Yamazaki1, Toshihiko Wakabayashi 1,10, Yutaka Kondo 11, Atsushi Natsume 1, and Ryuta Saito 1

 

所属:
1. Department of Neurosurgery, Nagoya University Graduate School of Medicine, 65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya 466-8550, Japan
2. Department of Neurosurgery, Nagoya Central Hospital, 3-7-7 Daiko, Nakamura-ku, Nagoya 453-0801, Japan
3. Department of Neurosurgery, Konan Kosei Hospital, 137 Oomatsubara, Takaya-cho, Konan 483-8703, Japan
4. Department of Neurosurgery, Aichi Cancer Center Hospital, 1-1 Kanokoden, Chikusa-ku, Nagoya 464-8681, Japan
5. Department of Neurosurgery, Nagoya Medical Center, 4-1-1 Sannomaru, Naka-ku, Nagoya 460-0001, Japan
6. Department of Neurosurgery, Japanese Red Cross Aichi Medical Center Nagoya Daini Hospital, 2-9 Myoken-Cho, Showa-ku, Nagoya 466-8650, Japan
7. Department of Neurosurgery, Anjo Kosei Hospital, 28 Higashihirokute, Anjo-cho, Anjo 446-8602, Japan
8. Department of Neurosurgery, Toyohashi Municipal Hospital, 50 Aza Hachiken Nishi, Aotake-Cho, Toyohashi, 441-8570, Japan
9. Department of Hematology and Oncology, Toyohashi Municipal Hospital, 50 Aza Hachiken Nishi, Aotake-Cho, Toyohashi, 441-8570, Japan
10. Department of Neurosurgery, Nagoya Kyoritsu Hospital, 1-172 Hokke, Nakagawa-ku, Nagoya 454-0933, Japan
11. Division of Cancer Biology, Nagoya University Graduate School of Medicine, 65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya 466-8550, Japan

 

DOI:https://doi.org/10.1002/cam4.5512

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Can_230111en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 齋藤 竜太 教授
https://med-nagoya-neurosurgery.jp/index.php