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医歯薬学

2023.01.19

大腸癌浸潤先進部がん微小環境における情報交換を一細胞レベルで解明

名古屋大学大学院医学系研究科システム生物学分野の島村徹平 教授、小嶋泰弘 前特任講師(現在:東京医科歯科大学難治疾患研究所に所属)、九州大学別府病院外科の三森功士 教授、九州大学大学院医学系学府博士課程の大里祐樹の研究グループは、アジア人大腸がん患者のシングルセル RNAシークエンス※1 と空間トランスクリプトーム解析※2 を用いて統合解析を実施し、HLA-G を介したSPP1+マクロファージの誘導という大腸癌浸潤先進部の大腸癌の増殖能・浸潤能・免疫寛容に関与する新たな仕組みを解明しました。
従来の研究においては一細胞レベルでの大腸癌浸潤先進部での現象が分かっておらず、空間情報を有したまま大腸癌浸潤先進部において腫瘍の浸潤を可能にする分子機構の解明が望まれていました。
本研究では、大腸癌患者の一細胞、並びに空間解像度を伴った網羅的な転写産物の観測データの統合的な情報解析により、がん細胞由来の HLA-G 分子が、腫瘍の悪性化に大きく関わる SPP1+マクロファージの誘導に関わることを示しました。さらに、これらの解析結果は、大腸癌検体 20 例に対する免疫組織化学染色、並びにマウスへの大腸癌 HLA-G ノックアウト細胞の移植実験により、その再現性を確認しました。今回の発見は第 2 の免疫チェックポイントといわれる悪性マクロファージを標的にした治療法の提案であり、大腸癌致死数逓減に繫がる新たな治療アプローチとなることが期待されます。
本研究成果は、国際学術誌「Cell Reports」オンライン版に 2023 年 1 月 17 日に掲載されました。

 

【ポイント】

○ 大腸癌においてシングルセル RNA シークエンスと空間トランスクリプトーム解析とを統合解析
○ HLA-G を介した大腸癌の増殖/浸潤/免疫抑制に関与する細胞を特定しクロストーク(情報交換機構)を解明
○ 新規免疫チェックポイント阻害剤(ICB)を基盤とする免疫療法への発展が期待

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 シングルセル RNA シークエンス
一細胞ごとの区別をつけた状態で RNA 分子の網羅的なシークエンシングを行うことにより、細胞ごとの遺伝子発現量の網羅的な定量化を行う手法
※2 空間トランスクリプトーム解析
転写産物の網羅的な発現の解析を各転写産物の組織内における空間的コンテキストを保ったまま行う技術。普及技術においては、一細胞レベルの解像度となっていないため、シングルセル RNA シークエンスとの統合解析が重要となる。

 

【論文情報】

掲載誌:Cell Reports
論 文 タ イ ト ル : Spatial and single-cell transcriptomics to decipher the cellular society containing HLA-G+ cancer cells and SPP1+ macrophages in colorectal cancer
著者名:Yuki Ozato, Yasuhiro Kojima, Yuta Kobayashi, Yuuichi Hisamatsu, Takeo Toshima, Yusuke Yonemura, Takaaki Masuda, Kouichi Kagawa, Yasuhiro Goto, Mitsuaki Utou, Mituko Fukunaga, Ayako Gamachi, Kiyomi Imamura, Yuta Kuze, Junko Zenkoh, Ayako Suzuki, Atsushi Niida, Takeharu Sakamoto, Haruka Hirose, Shuto Hayashi, Jun Koseki, Eiji Oki, Satoshi Fukuchi, Kazunari Murakami, Masanobu Oshima, Taro Tobo, Satoshi Nagayama, Mamoru Uemura, Yuichiro Doki, Hidetoshi Eguchi, Masaki Mori, Takeshi Iwasaki, Yoshinao Oda, Tatsuhiro Shibata, Yutaka Suzuki, Teppei Shimamura, Koshi Mimori
DOI:10.1016/j.celrep.2022.111929

 

論文掲載 URL:
https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(22)01830-7

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 島村 徹平 教授
https://www.nagoya-sysbiol.info/