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工学

2023.01.20

産業上有用な大腸菌の迅速簡便な固定化技術を開発 ~バイオプロセスによるものづくりを加速~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の堀 克敏 教授、吉本 将悟 助教らの研究グループは、マックスプランク研究所注2)(ドイツ)のアンドレイ ルパス教授、オスロ大学(ノルウェー)のディルク リンケ教授らとの共同研究で、薬や化成品の生産に使用され、産業上有用な微生物である大腸菌を迅速簡便に担体に固定化注3)する新手法を開発しました。固定化することで、微生物を反応バッチごとに捨てることなく、連続的に又は繰り返し使えるようになります。また、微生物と生産物の分離が容易になります。従来はゲルに閉じ込めるなどの方法で固定してきましたが、反応効率の深刻な低下を招くなど、実用的ではありませんでした。
新手法では、堀教授らの独自の材料であるAtaAと名付けられた接着蛋白質の毛を利用します。堀教授らはAtaAの毛を細菌細胞に生やし、簡便で強力、しかも可逆的な微生物固定化法を開発してきましたが、AtaA蛋白質が大きすぎて、限られた細菌にしか生やすことはできませんでした。本研究では、AtaAの接着部位を特定し、機能を維持したまま小型化することに成功しました。これにより、小型化AtaAを大腸菌に生やすことに成功しただけでなく、大腸菌の増殖速度や他の酵素活性の低下も避けることができました。本研究成果は、環境負荷の低いバイオプロセスによるものづくりを加速し、カーボンニュートラルの実現に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2023年1月9日付国際学術雑誌「Frontiers in Bioengineering and Biotechnology」に掲載されました。

 

【ポイント】

・細菌の強力な接着蛋白質AtaA注1)を、機能を維持したまま小型化することに成功。
・小型化AtaAを生やした大腸菌を担体と混合するだけで、菌体を担体に迅速固定。
・外来蛋白質のAtaAを生やしても、大腸菌の増殖や酵素活性は低下しないことを確認。
・カゼイン加水分解物により可逆的に菌と担体を分離可能で、世界唯一の反復着脱可能な微生物固定化技術。担体も微生物も再使用可能。
・大腸菌以外にも他の多くの細菌に幅広く適用可能な技術である。
・バイオプロセスによるものづくりを加速し、カーボンニュートラルの実現に貢献することが期待される。

 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)AtaA:
堀教授のグループが高付着性細菌Acinetobacter sp. Tol 5から発見した接着性ナノファイバー蛋白質。プラスチックやガラス、金属など様々な材料表面に対して非常に高い接着性を示す。

 

注2)マックスプランク研究所:
ドイツの基礎科学研究を担うマックスプランク学術振興協会傘下の研究所で、多くのノーベル賞学者を輩出してきた世界有数の研究所。

 

注3)固定化:
化学物質やバイオ燃料などを生産したり、有害物質を分解したりする有用な微生物を、担体に固定することで、繰り返しまたは連続的に利用できるようにする技術。従来は、高分子ゲルに微生物細胞を閉じ込めることで固定する方法が主流であったが、反応速度の低下や固定の非効率性などの問題があった。堀教授のグループは、好きな材料で好きな形状に加工した材料表面に、接着蛋白質を使って直接、微生物細胞を固定する新技術を開発し、注目されている。

 

【論文情報】

雑誌名:Frontiers in Bioengineering and Biotechnology
論文タイトル:Identification of the adhesive domain of AtaA from Acinetobacter sp. Tol 5 and its application in immobilizing Escherichia coli
著者:Shogo Yoshimoto1, Sota Aoki1†, Yuki Ohara1†, Masahito Ishikawa1†, Atsuo Suzuki1, Dirk Linke2, Andrei N. Lupas3, Katsutoshi Hori1     
1Department of Biomolecular Engineering, Graduate School of Engineering, Nagoya University, Nagoya, Japan
2Department of Biosciences, University of Oslo, Oslo, Norway
3Department of Protein Evolution, Max Planck Institute for Biology, Tübingen, Germany
Present address: Masahito Ishikawa, Department of Bioscience, Nagahama Institute of Bio-Science and Technology, Nagahama, Japan
Sota Aoki, Meidensha Corporation, Tokyo, Japan
Yuki Ohara, Friend Microbe Inc., Nagoya, Japan
DOI: 10.3389/fbioe.2022.1095057
URL: https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fbioe.2022.1095057/full

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 堀 克敏 教授
https://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/life3/