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医歯薬学

2023.02.09

尿中抗ヘリコバクター・ピロリ抗体の有無とがん死亡の関連 ~大幸コホート研究(名古屋市)による追跡結果~

岩手医科大学医歯薬総合研究所の西塚哲(にしづかさとし)特任教授、名古屋大学の中杤昌弘(なかとちまさひろ)准教授、広島大学の内藤真理子(ないとうまりこ)教授、および名古屋大学の若井建志(わかいけんじ)教授らの研究グループは、名古屋市を対象とした前向きコホート研究のデータを用いて、尿中抗ヘリコバクター・ピロリ菌(HP)抗体の有無によるがん罹患率および死亡率について検討しました。尿中 HP 抗体を有する群ではがん罹患率が高かったのに対し(p=0.00328)、死亡率に関しては同抗体を有するかどうかでは有意な差は見られませんでした。抗 HP 抗体の有無は過去の HP 感染を示唆することから、HP 感染があると胃がんのみならずがん全般に罹り易い状態であることが示唆されました。罹患率からは HP 陽性者の死亡率が HP 陰性者と比較して高いことも考えられますが実際には HP 陽性者と HP 陰性者で死亡率は差がなかったことから、HP 感染が何らかの生存に有利な影響を及ぼしている可能性も考えられました。研究成果は米国東部時間 2023 年 2 月 8 日午後 2 時(日本時間 2023年 2 月 9 日午前 4 時)に米国の専門誌 PLOS Global Public Health 誌にて発表されました。

 

【ポイント】

 ・自験例を含む先行研究から、HP 陽性の進行胃がんでは HP 陰性の進行胃がんと比較して生命予後がよいことが知られています。しかしながら、胃がん以外では HP 感染と死亡率の関連は明確になっていませんでした。
・名古屋市の住民を対象として行った健常人コホート研究(大幸研究)に参加した約 5,000 人の尿中抗 HP 抗体を測定し、8 年間の追跡期間中のがん罹患率と全死亡率との関連を検討しました。尿中 HP 抗体陽性(以下 HP 陽性)であれば、過去に HP に感染していたことが示唆されます。
・誕生年が最近であるほど HP 感染率が低いことが知られています。誕生年と HP 感染率によるバイアスを低減するために、頻度マッチングという手法を用いて HP 陽性群と陰性群間で男女ごとに誕生年の分布をそろえて解析を進めました。
・がん罹患率を HP 陽性群と HP 陰性群で比較すると HP 陽性群で有意に高値であることがわかりました。一方、コホート研究参加者の全死亡率を HP 陽性群と HP 陰性群で比較すると有意な差はありませんでした。
・以上の結果から、HP 感染があるとがんに罹り易い状態であることが示唆されたと言える一方、罹患率からは HP 陽性者の死亡率が HP 陰性者と比較して高いことも考えられますが実際には HP 陽性者と HP 陰性者で死亡率は差がなかったことから、HP 感染が何等かの生存に有利な影響を及ぼしている可能性が示唆されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【研究グループ】

西塚 哲 岩手医科大学医歯薬総合研究所医療開発研究部門(責任著者)
中杤 昌弘 名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学専攻実社会情報健康医療学
小泉 優香 岩手医科大学医歯薬総合研究所医療開発研究部門
菱田 朝陽 名古屋大学大学院医学系研究科予防医学講座
岡田 理恵子 名古屋大学大学院医学系研究科予防医学講座
川合 紗世 愛知医科大学公衆衛生学講座
須藤 洋一 岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構
肥田 圭介 岩手医科大学医学部医療安全学講座
清水 厚志 岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構/岩手医科大学医歯薬総合研究所生体情報解析部門
内藤 真理子 広島大学大学院医系科学研究科口腔保健疫学研究室
若井 建志 名古屋大学大学院医学系研究科予防医学講座

 

【論文情報】

https://journals.plos.org/globalpublichealth/article?id=10.1371/journal.pgph.0001125

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 若井 建志 教授

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/yobo/